表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/122

第79章「握手会応募――“2万人の中の一行”」


車は静かに都心の道路を走っていた。


後部座席には巳波とマネージャーの筒香雷斗。


運転手は別におり、車内は仕事の空気だけが淡く流れている。



巳波のスマホには、握手会応募フォームの集計画面が開かれていた。


リアルタイムで更新される数字。


応募者数。



「……2万人か」


雷斗が低く呟く。


まだ受付開始からそれほど時間は経っていない。


それでも、数字はすでに想定を超えていた。



・応募者数:20,000人

・当選枠:3,000人



完全な倍率。


そしてその中身は、ただの数字ではなかった。



年齢層はバラバラ。


10代から50代まで。


職業も趣味も国籍も違う。


コメント欄には、短い一言から長文まで混ざっている。



【いつも元気をもらっています】

【ラーメン配信は一生忘れません】

【家族で見ました】

【初めて推しという存在ができました】



そして――その中に一つだけ、明らかに“異質”なものがあった。



雷斗が画面をスクロールする指を止める。


「これ……」



そこにあったのは、異様な長文だった。


感想でもあり、分析でもあり、距離の近い視点。


そして何より、内容が“内部を知っているかのように具体的”だった。



巳波もそれを見て、少しだけ目を細める。


「琉偉だね」


即答だった。



雷斗は苦笑する。


「やっぱり分かりますか」



巳波はスマホを閉じる。


「コメントの書き方が違う」


「見てる距離が近すぎる」



雷斗は少しだけ頷く。


「しかも、4枚分応募してますね」



画面にはしっかりと記録されている。


16桁の引換券を複数使用。


そしてコメントの質。


完全に“個人識別可能レベル”。



雷斗は少し真面目な声になる。


「この人、2日間で4回当選枠に入れますか?」



巳波は窓の外を見る。


少しだけ沈黙。



「……どう思う?」


逆に返した。



雷斗は腕を組む。


「運営としては公平性を保つなら1回」


「でもこのケースは、単純なファンというより“関係者に近い距離”ですよね」



巳波は小さく笑う。


「関係者ではないよ」


「でも一番近い人」



車の中が少しだけ静かになる。



雷斗は再び画面を見る。


倍率。


応募者数。


そして一つの特別な存在。



「……2日間で4回」


「やるなら、理由が必要ですね」



巳波は少しだけ考える。


そして、静かに言う。


「理由なんていらないと思うけど」


「でも、他の人から見たら特別扱いになる」



雷斗は頷く。


「炎上リスクはあります」



巳波は少しだけ微笑む。


「でもね」


「その人は“そういう枠”じゃない気がする」



雷斗はその言葉に一瞬だけ黙る。



そして現実的な判断に戻る。


「では案としては2つです」


「①通常通り1回当選扱い」


「②特例枠として2日間4回参加」



巳波は即答しない。


少し間を置く。



「……②にするなら」


「“理由が伝わらない形”にして」



雷斗は眉を少し動かす。


「つまり?」



巳波は静かに言う。


「特別扱いに見せない特別」



雷斗は小さく息を吐く。


「難しいですね、それ」



でもすぐに頷く。


「分かりました。調整します」



車はそのまま進む。


外の景色は変わっていくのに、


車内の空気だけは少しだけ“決定”に近づいていた。



巳波はスマホをもう一度開く。


琉偉のコメント。


長い一文。



それを見て、静かに呟く。


「……ちゃんと見てるんだよね」



誰に向けた言葉でもない。


でも確かに、そこには“選ばれてしまった一人”の存在があった。



車はそのまま次の現場へ向かう。


握手会という名の、


まだ形になりきっていない“出来事”へと近づいていく。 



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ