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第78章「日常の中の非日常――大学と“握手会”の通知」


朝の空は、前日の余韻を残すこともなく、いつも通りに明るかった。


琉偉はリュックを肩にかけ、最寄り駅へ向かう。


スマホには、いつも通りの時間割と、大学からの連絡通知。


そしてもう一つ――昨日までとは少し違う現実の延長線。



電車のドアが開く。


人の流れに混ざりながら、琉偉はホームへ入る。


通学時間帯の電車は、同じ大学の学生で少しだけ混んでいた。



「おはよ、琉偉」


後ろから声がかかる。


同じ学部の男子学生が軽く手を上げる。


「今日1限からだっけ?」


「うん、必修」


琉偉は短く返す。


それだけで会話は終わるが、妙に日常らしい空気がそこにはあった。



大学に着くと、キャンパスはすでに学生で埋まっている。


サークルの勧誘ポスター。


講義棟へ急ぐ学生たち。


コーヒー片手に歩く人たち。


その全部が“普通”だった。



教室に入ると、数人の同級生が顔を上げる。


「お、来た」


「昨日課題出たの見た?」


「やばかったよなあれ」


そんな軽い会話の中で、琉偉は自分の席に座る。


ノートを開く。


ペンを置く。



講義が始まる。


教授の声。


スライド。


板書。


淡々と進む90分。



だがその静かな時間の裏で、琉偉のスマホは一度だけ震えていた。



昼前の休憩時間。


大学の中庭。


ベンチに座り、琉偉が水を飲んでいるときだった。



着信。


「巳波」



出ると、少しだけ軽い声が聞こえる。


「握手会、決まったよ」



琉偉は少しだけ目を上げる。


「握手会?」



巳波の声は続く。


「2日間で3000人規模」


「前に買ってくれた写真集あるでしょ?」


「そこに付いてる引換券で応募できるようになってるから」


「あとでやってみて」



琉偉は短く答える。


「分かりました」



それだけで通話は終わる。



画面を見つめながら、琉偉は小さく息を吐く。


「握手会か……」



そして昼休み。


キャンパスの食堂ではなく、ベンチで一人スマホを開く。


検索。


「東雲巳波 公式」



トップに出てきたのは握手会専用ページ。


大きく書かれた文字。


【握手会応募受付ページ】



琉偉はそこをタップする。


画面が切り替わる。



入力フォーム。


・引換券番号(16桁)

・氏名

・電話番号

・年齢

・性別

・コメント



琉偉はポケットから引換券を取り出す。


4枚分。


静かに番号を入力していく。


16桁を、ミスなく。



そしてコメント欄。


少しだけ手が止まる。



数秒後、ゆっくりと打ち始める。



「いつも配信や活動を見ています。」


「ラーメン配信の回は、ただの企画ではなく“チームで作る空気”そのものが印象的でした。」


「無理をしているようでいて、ちゃんと周りと一緒に成立しているのがすごいと思いました。」



一度止める。



続ける。



「普段の仕事と大学生活の間で見るあなたは、少し違って見えますが、どちらも自然だと思います。」


「握手会、行けるかは分かりませんが、応募だけはしました。」



最後に一文。


少しだけ短く。



「これからも無理せず活動してください。」



送信ボタン。



完了。



その瞬間、ちょうど講義開始のチャイムが鳴る。



琉偉はスマホを閉じて教室へ戻る。



何事もなかったように席に座り、


再びノートを開く。



だが頭のどこかには、


さっき送った“応募”の画面が、少しだけ残っていた。



一方その頃、巳波は移動車の中でそれを見ていた。


「応募、入ったね」


小さく笑う。



窓の外には流れる街。


その向こうで、同じ時間が別々に進んでいる。



大学の琉偉と、


仕事の巳波。



繋がっているのに、少しだけ距離のある日常だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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