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第76章「日曜午後――“選択と保存される距離”」


日曜の午後。


家の中は、ゆっくりと静けさを取り戻していた。


外の通りには人の気配があるのに、この部屋だけは少しだけ切り離されたように落ち着いている。



琉偉はリビングのテーブルにノートパソコンを開いていた。


画面には大学のシラバスと履修登録画面。


明日から始まる講義の確認。


必修科目。


単位の残り。


空きコマの調整。



「ここは必修……こっちは前期で終わってる」


小さく呟きながら、淡々とチェックを進めていく。


その姿は、どこか“日常に戻る準備”そのものだった。



その横でスマホが震える。


画面に表示された名前は巳波。



琉偉は少しだけ視線を落とし、そのまま開く。



トーク画面には、画像が複数並んでいた。



「次のグラビア表紙候補」


そう書かれたメッセージとともに、5枚の写真。




■① ホワイトビキニ(王道シンプル)


純白のビキニ。

余計な装飾はなく、ラインの美しさをそのまま見せる王道デザイン。

光を受けると肌の透明感が強調され、清楚さと大人っぽさの境界にある一枚。

“正統派表紙”向け。



■② ネイビーワンピース(ハイネックスポーティ)


濃紺のワンピース型水着。

首元まで覆うハイネックで、露出は控えめ。

その代わりスタイルラインがはっきり出る設計で、知的・クールな印象。

雑誌の信頼感を出すタイプ。



■③ レッドオフショルダー(攻めデザイン)


鮮やかな赤。

肩を落としたオフショルダー型で、鎖骨と肩のラインを強調。

視線を一気に引きつける“主役級”デザイン。

表紙のインパクト重視。



■④ ブラッククロスストラップ(モード系)


黒のビキニ。

細いストラップが複雑にクロスし、身体のラインを立体的に見せる構造。

全体的に引き締まった印象で、高級誌やモード系に向く一枚。

“完成度重視”。



■⑤ ライトブルーフリル(ガーリー系)


淡い水色のフリル付きビキニ。

動きに合わせて軽く揺れる柔らかいデザイン。

透明感と可愛らしさを前面に出した構成で、親しみやすさが強い。



琉偉は一枚ずつ静かにスクロールする。


表情はほとんど変わらない。


だが、指が止まる一瞬だけがあった。



「……これ、選ばせるんですね」


小さく呟く。



その時、またメッセージが届く。


巳波:


「どれがいいと思う?」



短い一文。


だが、完全に“仕事と私生活の境界”に触れる質問だった。



琉偉は少しだけ考えたあと、返信する。


「④が一番バランスがいいと思います」



すぐに既読がつく。



巳波:


「了解。ありがとう」



それだけ。



琉偉はノートパソコンを閉じ、再び履修画面を開く。


「明日からか……」


小さく息を吐く。



その時だった。


またスマホが震える。



巳波:


「④に決めたけど……①から⑤まで、全部一応あなたに送りたい」



少し間を置いて、さらに続く。



巳波:


「保存したいって言ってたでしょ?」



琉偉は一瞬だけ目を細める。


そして短く打つ。


「わがままですね」



既読がつくのは早い。



巳波:


「仕事だからね」



その後すぐに、現場の空気が切り替わる。


スタジオ側へ巳波が一言。


「すみません。撮影前に、5枚だけ別で送ってもいいですか?」



カメラマンが少しだけ首をかしげる。


監督が笑う。


「仕事用なら問題ないよ。未公開扱いでね」



巳波は小さく頷く。


「ありがとうございます」



そしてスマホを取り出す。


さきほどの5枚を、もう一度整理するように確認しながら撮影データから選ぶ。



一枚ずつ。


丁寧に。


ただの写真ではなく、“誰かに見せる前提の記録”として。



送信先は琉偉。




■家の中


ピロン。


琉偉のスマホが鳴る。


画面を開いた瞬間、静かだった部屋の空気が少しだけ変わる。



5枚の未公開データ。


どれも撮影直前のオフカットに近いものだった。


仕事用でありながら、どこか私的な距離感がある。



蒼と彩音がいれば確実に騒ぐような内容。


だが今は誰もいない。


静かな日曜の午後。



琉偉はそれを順番に見ていく。


そして少しだけ息を吐く。


「全部、ちゃんとしてますね」



その時、またメッセージ。


巳波:


「全部保存していいよ」



間を置いてもう一つ。


巳波:


「嫌じゃなければね」



琉偉はスマホを見つめたまま、短く返す。


「わがままですね」



すぐに既読。



巳波:


「仕事と特別、半分ずつ」



琉偉は少しだけ目を閉じる。


そして静かに言う。


「……分かりました」



スマホを置く。


ノートパソコンを開き直す。


履修画面。


明日からの大学。



現実は確かにそこにあるのに、


画面の裏側にはもう一つの“日常”が並んでいた。



仕事と生活。


距離と近さ。


静けさと熱。



そのすべてが、日曜の午後に重なっていた。  



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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