第73章「撮影現場と日常の交差――“まだ世に出ない一枚”」
家の中は、ゆるやかな日常の空気に戻っていた。
テレビでは朝の情報番組が流れている。
キッチンでは小さな生活音。
洗濯機の回る音が、一定のリズムで部屋の時間を刻んでいた。
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琉偉はリビングで軽く掃除をしながら、テレビを横目に見ている。
その動きは無駄がなく、慣れたものだった。
「今日、天気安定してますね」
ぽつりと呟く。
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ソファに座っている蒼(AQUOS)が伸びをする。
「平和すぎて逆に怖いんだけど」
彩音もコーヒーを片手に頷く。
「昨日のラーメン12杯と同じ家とは思えない」
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琉偉は淡々と返す。
「日常はこういうものです」
その言葉に、二人は妙に納得してしまう。
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その頃――
巳波は、別の世界にいた。
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スタジオ。
照明。
白く反射する背景。
カメラマンが複数台のカメラを調整している。
監督が静かに指示を出す。
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「OK、そのポーズもう一度」
「もう少し肩の角度」
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空気は仕事そのものだった。
その中心に、巳波が立っている。
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衣装は水着。
ただし、派手さではなく“作品としての完成度”を重視したもの。
光の当たり方で印象が変わるように設計されている。
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シャッター音が連続する。
パシャ、パシャ、パシャ。
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その中で巳波は、ふと手を止める。
カメラマンが気づく。
「どうしました?」
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巳波は少しだけ考えてから言う。
「この写真……まだ公開前ですよね?」
監督が頷く。
「そうだね。正式公開までは外部共有禁止」
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巳波は一瞬だけ視線を落とす。
そして小さく笑う。
「一枚だけ……送ってもいいですか?」
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現場が少しだけ静まる。
カメラマンが眉を上げる。
「誰に?」
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巳波は迷わず答える。
「大事な人です」
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その一言で、空気が柔らかくなる。
監督は少しだけ考えてから言う。
「未公開カットだから、拡散はしないでね」
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巳波は小さく頷く。
「はい」
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そして――
撮影の合間に、自分のスマホを取り出す。
カメラ越しではない、プライベートな一枚。
少しだけ角度を調整して撮る。
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その写真を、そのまま送信した。
宛先は琉偉。
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■家の中
ピロン。
琉偉のスマホが鳴る。
画面を見た瞬間、動きが止まる。
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そこに映っていたのは――
まだ世に出ていない巳波の水着姿。
光の入り方まで整った一枚。
ただの写真ではなく、“作品の裏側”だった。
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琉偉は一瞬だけ目を細める。
そして、静かに笑う。
「……ちゃんと、頑張ってますね」
その声は小さいが、確かに嬉しそうだった。
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それを後ろから覗き込んだ蒼が固まる。
「……え、これ見ていいやつ?」
彩音も覗く。
「いやこれ……未公開じゃない?」
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琉偉は淡々と答える。
「僕宛てなので問題ありません」
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蒼がすぐにツッコむ。
「そういう問題じゃないでしょ!」
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彩音も小声で言う。
「なんかもう距離感が全部おかしい」
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その頃、スタジオ。
筒香雷斗が少しだけ歩み寄る。
「今の……旦那さんに送ったんですか?」
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巳波はカメラを見たまま、小さく頷く。
「はい」
それだけ。
迷いはない。
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筒香は少しだけ息を吐く。
「……まあ、そういう関係性なら問題ないですが」
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監督は軽く笑う。
「リアルが一番強いね」
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シャッター音が再び鳴り始める。
パシャ。
パシャ。
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巳波は何事もなかったように撮影に戻る。
だがその表情は、さっきより少しだけ柔らかかった。
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■家と現場の同時進行
・蒼 → 未公開写真に動揺しつつテレビ視聴
・彩音 → 距離感バグにツッコミ疲れ
・琉偉 → 普通に既読で笑っている
・巳波 → 撮影現場で仕事継続中
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まるで別世界なのに、一本の線で繋がっている。
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蒼がぼそっと言う。
「この家、普通の基準がもう壊れてるよな」
彩音が頷く。
「でも……嫌じゃないのがまた怖い」
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琉偉はスマホをポケットに戻す。
「日常としては正常です」
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その言葉に、二人はもう反論しなかった。
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外ではシャッター音。
家ではテレビの音。
そしてその間を繋ぐのは、たった一枚の写真だった。
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まだ誰にも公開されていない、
“特別な日常の一部”。
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