第6章「年齢差という現実、そしてバレ未遂」
月曜日、朝。
カーテンの隙間から差し込む光。
その中で、廣瀬琉偉はゆっくりと目を覚ました。
(……昨日)
一瞬で思い出す。
夜のこと。
距離が、完全にゼロになったこと。
隣を見る。
東雲巳波が、静かに眠っている。
髪は少し乱れていて、眼鏡も外している。
“画面の中”では絶対に見られない姿。
(……現実か)
そう思った瞬間。
「……起きた?」
目を開けたまま、巳波が呟く。
「……はい」
少しだけ気まずい沈黙。
だが。
巳波は、いつも通りだった。
「今日、学校でしょ」
「……はい」
「ちゃんと行きなよ」
昨日と同じ言葉。
でも。
その意味は、少しだけ違う気がした。
「……あの」
「ん?」
「……その」
言葉に詰まる。
何を言えばいいのか分からない。
すると。
巳波は、少しだけ体を起こして――
「行ってらっしゃい」
軽く、唇を重ねた。
朝のキス。
一瞬。
でも、はっきりとした温度。
「……っ」
完全に思考が止まる。
「顔、真っ赤」
「……やめてください」
「夫婦なんだから普通でしょ」
またそれを言う。
でも。
今回は、少しだけ違った。
(……普通、か)
“普通”という言葉が、やけに重く感じる。
⸻
通学路。
(……やばい)
顔の熱が、まだ残っている。
朝のキス。
それだけで、思考が持っていかれる。
「おーい琉偉!」
声をかけてきたのは、クラスメイト。
如月晴斗。
明るくて空気を回すタイプ。
その隣には、
九条蒼。
落ち着いた雰囲気で、観察力が高い。
さらに後ろから、
藤堂紗希。
人懐っこくて距離が近い女子。
「今日テンション低くね?」
晴斗が笑いながら言う。
「……普通だよ」
「いや絶対なんかあるだろ」
「ないって」
「顔に出てる」
(やばい)
心臓が跳ねる。
その時。
「……琉偉」
低い声。
九条蒼だった。
「最近、様子変わったよな」
「……え」
鋭い視線。
ただの冗談じゃない。
観察している目。
「……そうか?」
「隠してる感じがある」
「……」
言葉が出ない。
(やめろ)
核心に近づくな。
「彼女でもできた?」
紗希が軽く言う。
「――っ」
その一言で、完全に詰まる。
一瞬の沈黙。
「……図星?」
晴斗が笑う。
「いや、違うって」
無理やり否定する。
でも。
(今の間……)
自分でも分かる。
不自然だった。
⸻
教室。
席に座る。
(……危ない)
さっきの会話が頭から離れない。
九条蒼の視線。
完全に“気づきかけてる”。
(まずいな……)
その時。
教室のドアが開く。
「おはよー!」
明るい声。
入ってきたのは、
幼馴染の二人。
黒川蓮司。
無口だけど面倒見がいいタイプ。
そして。
白石彩音。
クールで美人、でも琉偉には少しだけ甘い。
「琉偉、おはよ」
彩音が近づいてくる。
「……おはよ」
「なんか元気ないね」
「……そうか?」
「うん」
じっと見てくる。
距離が近い。
(やめろ……)
「なんかあった?」
「……何もない」
即答。
だが。
「……嘘」
小さく言う。
「顔で分かる」
(……なんでみんな分かるんだよ)
内心で崩れる。
「なぁ琉偉」
今度は蓮司。
「最近帰るの早くないか」
「……そうか?」
「前はもっと残ってた」
「……ちょっと用事」
「へぇ」
短い返事。
でも、それ以上は追及しない。
その代わり。
「何かあったら言えよ」
一言だけ。
それが逆に刺さる。
⸻
昼休み。
スマホが震える。
(……っ)
反射的に確認する。
【東雲巳波】
『洗濯しておいた』
『帰り何時?』
(やめてくれ……!)
完全に“妻”のメッセージ。
その時。
「……誰?」
後ろから声。
振り返る。
九条蒼。
「……っ」
距離が近い。
画面、見られる位置。
「いや……その……」
とっさにスマホを伏せる。
だが。
一瞬、見えた。
名前。
“東雲巳波”
「……今の」
蒼の目が、細くなる。
(終わった)
一気に血の気が引く。
「……東雲って」
「……っ」
「……あの?」
空気が変わる。
完全に疑われている。
「違う」
即答。
「ただの……名前が同じ人」
「……ふーん」
納得していない顔。
完全にアウトではない。
でも。
(ギリギリだ)
一歩間違えれば、崩壊する。
⸻
放課後。
「今日、帰るのか?」
晴斗が聞く。
「……うん」
「またかよー」
「ちょっとな」
そのまま教室を出る。
背中に視線を感じる。
振り返らない。
振り返ったら、崩れる気がした。
⸻
家。
ドアを開ける。
「おかえり」
その一言で。
張り詰めていたものが、少しだけ緩む。
「……ただいま」
靴を脱ぎながら、息を吐く。
「どうしたの?」
巳波が首を傾げる。
「……バレかけました」
その一言で。
空気が変わる。
「……どこまで?」
声が低い。
仕事の時の顔。
「名前……見られました」
「……はぁ」
小さく息を吐く。
「油断しすぎ」
「……すみません」
何も言い返せない。
「だから言ったでしょ」
“バレたら終わり”
その言葉が、現実として迫る。
「……怖くなった?」
静かに聞かれる。
「……はい」
正直に答える。
「当たり前だよ」
巳波は、少しだけ視線を落とす。
「年齢も、立場も、全部違う」
「……」
「普通なら、絶対に成立しない関係」
その言葉は、はっきりしていた。
「……でも」
琉偉は言う。
「それでも、やめたいとは思ってないです」
沈黙。
数秒。
巳波は、ゆっくりと顔を上げる。
「……ほんと、変わってるね」
少しだけ笑う。
でも。
その目は、少しだけ揺れていた。
⸻
“年齢差”という現実。
“バレる”という恐怖。
その二つが、初めて明確に形になった。
そして。
その境界線は、もうすぐ崩れるかもしれない。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




