表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/122

第62章「ラーメン大食い生配信⑵ 沈黙の数分と、増え続ける視聴者」

ラーメンの器がすでに数個空き始めた頃。


巳波は、少しだけ箸を置く。



一瞬、配信のテンポがゆるむ。


湯気だけが画面の中でゆらゆらと揺れていた。



「ちょっとトイレ行ってきます」



軽い一言。


まるで何も特別なことはないように。



配信画面には「休憩中」の空気が流れる。



コメント欄も一瞬だけ緩む。



【休憩かー】

【まだ半分くらい?】

【大食いって地味に体力使うよな】

【ラーメン見てるだけで腹減る】



だが、その直後。



音声がミュートに切り替わる。



“無音”。



カメラは変わらず、ラーメンの器と機材だけを映し続ける。


湯気の音さえ消えたような静寂。



その“無音の数秒”。



巳波は一度だけ、背後を振り返る。



そして――



琉偉の方へ、自然に近づく。



何の躊躇もなく。


まるで呼吸の延長のように。



次の瞬間。



唇が重なる。



“濃厚なキス”。



ただの接触ではない。



長く、静かで、逃げ場のない距離。



巳波は最初、ほんの少しだけ躊躇うように息を止め――



そのあと、ふっと力が抜けるように、さらに深く寄せる。



「……んっ」



小さな声が漏れる。



それはマイクには乗らない。


しかし、空気だけが確かに変わる。



琉偉の方も、一瞬だけ呼吸が乱れる。



それでも拒むことなく、静かに受け止める。



時間にして数秒。



だが、配信画面の“無音”の中では異様なほど長く感じられる。



やがて巳波は、名残を残すようにゆっくりと離れる。



唇が離れる瞬間、ほんのわずかに息がこぼれる。



「……はぁ」



小さな吐息。



そしてそのまま、何事もなかったように背を向ける。



「すぐ戻るね」



それだけ言って、トイレへ向かう。




残された空間。



蒼と彩音は、完全に固まっていた。



ポカーン。


その言葉以外にない表情。



蒼が数秒遅れて口を開く。



「……今の」



彩音も続く。



「普段の生活なの?」



琉偉は少しだけ間を置いて、淡々と答える。



「朝は必ずあります」



「自然に、ですね」



さらに付け足すように。



「好きなので」



その一言で、空気が止まる。



蒼は頭を抱える。



「いや……情報量多すぎるって」



彩音は小さく笑いながらも困惑する。



「それ、普通じゃないと思うんだけど」



琉偉は視線をそらしながら一言。



「普通かどうかは、もう分からないです」




その頃。



トイレから戻った巳波。



手を洗いながら、鏡を見る。



少しだけ息を整える。



「よし」



そして小さく笑う。



「頑張るね」




戻ってくると。



何事もなかったように席へ。



そして迷いなく――



もう一度、琉偉の方へ寄る。



今度は短い。


しかし確実な“確認”のようなキス。



「……ん」



巳波の喉がわずかに鳴る。



その声もまた、配信には乗らない。




その瞬間、コメント欄は一気にざわつく。



【今戻った瞬間距離近すぎw】

【空気変わったのバレる】

【ミュートの間絶対なんかあった】

【でも誰も説明しないの草】



【この配信、情報伏せすぎ】

【見えないところで何してるんだ】

【逆に気になるやつ】



【ルーキーズ生きてる?】

【AQUOSとあやねんの反応もっと欲しい】




そして数字は止まらない。



250万人。


260万人。


275万人。


そして――


285万人。



巳波は画面を見て、ほんの少し目を見開く。



「……え?」



そして自然に笑う。



「増えてる」




カメラに向かって、少しだけ姿勢を整える。



「切り替えるね」



その一言。



そして――



もう一度だけ。



琉偉へ、短く確かにキス。



「……行くよ」




音声オン。



「再開します」




コメントが一気に戻る。



【来た!】

【再開待ってた】

【切り替え早いw】

【空気戻るの草】



巳波は軽く頭を下げる。



「登録者数285万人、ありがとうございます」



「本当にたくさん見てくれて嬉しいです」



そして続ける。



「これからも大食いだけじゃなくて」



「メイク動画とか、ゲーム配信とか」



「カードゲームとかもやっていくので」



「よろしくお願いします」



深く一礼。




コメント欄はさらに加速する。



【真面目モード好き】

【ギャップすごい】

【さっきとの差w】

【でも可愛いから許す】



【ラーメンまだ?】

【これ胃袋企画だよな】

【普通にすごい】




巳波は顔を上げる。



そして再び、ラーメンへ視線を戻す。



「じゃあ」



「続きをいきます」



湯気の向こうで、


配信は再び“食の戦場”へ戻っていく。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ