第59章「配信当日、重なる現実」
朝。
まだカーテン越しの光が弱い時間。
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「……ん」
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意識が戻る前に、柔らかい感触が触れる。
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唇。
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深く、ゆっくりと重なる。
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「起きて」
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巳波の声。
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琉偉は目を開ける。
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視界のすぐ近くに、巳波の顔。
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そのまま、もう一度――
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“濃厚なキス”
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今度は完全に目が覚めるほど、長く。
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「……おはようございます」
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琉偉が小さく言う。
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巳波は少しだけ満足そうに笑う。
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「おはよう」
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ベッドの端に腰を下ろしながら言う。
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「今日は一日、仕事なし」
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琉偉は少し驚く。
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「珍しいですね」
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巳波は肩をすくめる。
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「その代わり」
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少しだけ間を置く。
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「今日は配信、やりますよ」
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その言葉に、空気が一気に“本番モード”へ変わる。
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朝食後。
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巳波はスマホを手に取り、Xを開く。
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少し考え込むように画面を見つめ、
そして指を動かす。
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長文の投稿。
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『【本日20:00〜】
今日は大食い生配信やります。
内容はラーメンチャレンジ。結構ガチでいく予定です。
ちょっとした企画もあるので、時間ある人はぜひリアタイで。
久しぶりに全力でやるので見に来てね。』
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投稿ボタン。
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数秒後には通知が鳴り始める。
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「反応早い」
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巳波が小さく呟く。
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そのまま振り返る。
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「ねえ」
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琉偉を見る。
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「蒼と彩音に伝えといて」
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「ラーメンの大食いって」
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琉偉は頷く。
「分かりました」
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すぐにLINEを送る。
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『今日ラーメン大食いらしい』
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すぐに既読。
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『マジかww』
『楽しみすぎる』
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その時。
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スマホが震える。
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着信。
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「……母さん?」
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画面を見ると、“母・聖樹”。
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電話に出る。
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「もしもし」
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『琉偉?』
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いつもの落ち着いた声。
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『今日の夜なんだけど』
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少し間。
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『一度、新居に寄らせてもらうね』
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その一言で、空気が変わる。
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琉偉は一瞬だけ言葉に詰まる。
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「……今日ですか?」
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『ええ、少しだけ顔出すだけだから』
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断る理由もない。
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「分かりました」
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通話を切る。
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沈黙。
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巳波が静かに聞く。
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「どうしたの?」
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琉偉は正直に言う。
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「母が……今日来るそうです」
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一瞬の間。
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巳波は驚かない。
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ただ、小さく頷く。
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「そう」
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そして少しだけ笑う。
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「タイミングいいのか悪いのか」
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琉偉は苦笑する。
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「配信の日に来るとは思いませんでした」
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巳波は立ち上がる。
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「大丈夫」
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「どうにかする」
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その一言に、不思議と安心感がある。
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玄関。
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大学へ向かう琉偉。
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「行ってきます」
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巳波は一歩近づく。
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そして、迷いなく――
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唇を重ねる。
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朝とは思えないほど深く、長いキス。
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「……ん」
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離れたあと、巳波は静かに言う。
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「いってらっしゃい」
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ドアが閉まる。
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足音が遠ざかる。
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その直後。
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巳波の表情が“完全に仕事モード”へ変わる。
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「よし」
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リビングへ。
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テーブルを見渡す。
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そして、機材を一つずつ準備し始める。
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■配信機材
・メインカメラ:SONY α7 IV(ミラーレス一眼)
・サブカメラ:SONY ZV-1(俯瞰用)
・キャプチャ:Elgato Cam Link 4K
・マイク:SHURE SM7B(ブームアーム固定)
・オーディオIF:Focusrite Scarlett 2i2
・配信PC:ゲーミングPC(OBS使用)
・リングライト:Neewer 18インチLEDリングライト
・補助ライト:Godox LEDパネルライト×2
・三脚:Manfrotto三脚
・ミキサー:YAMAHA AG03
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テーブルに配置していく。
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ラーメンを置くスペース。
カメラの角度。
コメント確認用モニター。
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「ここに来る」
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一人で確認しながら動く。
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夕方に向けて、準備は整っていく。
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配信。
来客。
秘密。
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すべてが同時に重なる日。
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そして――
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まだ誰も知らない。
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この夜が、
“ただの配信”で終わらない可能性を
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