第57章「帰宅と、ふたりの作戦会議」
夕方。
講義が終わり、人の流れが一斉にキャンパスの外へ向かう。
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「じゃあまた明日な」
廉斗が軽く手を上げる。
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「課題やっとけよー」
斗真が笑う。
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冬馬は短く言う。
「プリント忘れるな」
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結衣、紗良、美月もそれぞれ挨拶をして散っていく。
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「またね、廣瀬くん」
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琉偉は頷く。
「お疲れさまです」
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駅へ向かう道。
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(今日も普通だった)
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でも、頭の中には昼の会話が残っている。
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“隣の男の人”
“声、聞いたことあるような…”
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(ギリギリだな……)
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そう思いながら、電車に乗る。
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東戸塚。
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家の前に立つと、少しだけ気持ちが切り替わる。
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鍵を開ける。
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「ただいま」
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「おかえり」
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すぐに返ってくる声。
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リビングには巳波がいた。
すでに部屋着に着替えていて、どこかリラックスした空気。
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「今日は早いですね」
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琉偉が言うと、巳波は肩をすくめる。
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「思ったより巻いた」
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そしてキッチンの方を指す。
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「ご飯、ちょうど温めたとこ」
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テーブルに並ぶ料理。
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二人で向かい合って座る。
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「いただきます」
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少しの沈黙。
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そのあと、琉偉が口を開く。
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「今日、大学で」
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巳波が顔を上げる。
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「うん」
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「大食い配信の話、出ました」
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巳波は少しだけ笑う。
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「やっぱり?」
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「はい」
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そして少し間を置いて続ける。
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「隣の人の話も」
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その一言で、巳波の表情がわずかに変わる。
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「どんな感じで?」
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琉偉は正直に答える。
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「彼氏じゃないか、とか」
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「声、聞いたことある気がするって」
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巳波は一度視線を落とす。
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そして、小さく息を吐く。
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「そっか」
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軽く笑うが、完全に余裕ではない。
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「まあ、時間の問題かもね」
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琉偉は少しだけ考える。
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「……どうしますか」
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その問いに、巳波はすぐには答えない。
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数秒の沈黙。
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やがて、ゆっくりと顔を上げる。
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「隠すよ」
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はっきりした声。
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「まだ、ね」
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琉偉は頷く。
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「分かりました」
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その後、巳波は少しだけ空気を変えるように言う。
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「で」
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「大食い配信の話」
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琉偉が少し身を乗り出す。
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「何やるんですか?」
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巳波はスマホを取り出す。
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「いくつか候補ある」
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画面を見せる。
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・ラーメン10杯チャレンジ
・激辛フード縛り
・コンビニ全種類制覇
・寿司100貫
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琉偉は一瞬固まる。
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「量、多くないですか」
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巳波は笑う。
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「大食い配信だからね」
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そして少しだけ真剣な顔になる。
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「どれがいいと思う?」
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琉偉は考える。
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「……ラーメンか寿司が分かりやすいと思います」
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巳波は頷く。
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「じゃあラーメンにしよっか」
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「リアクションも取りやすいし」
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さらに続ける。
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「で、蒼と彩音にはサポート入ってもらう」
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琉偉は少しだけ笑う。
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「巻き込みますね」
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「せっかく来るなら使うでしょ」
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軽い口調。
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食事が終わる。
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片付けをしながら、巳波がぽつりと言う。
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「ねえ」
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琉偉が振り向く。
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「今日、疲れた?」
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「少しだけ」
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巳波は近づく。
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そして軽くキス。
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「お疲れさま」
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短いが、温度のあるキス。
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そのまま距離は離れない。
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巳波が少しだけ小さく笑う。
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「金曜日、楽しみだね」
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琉偉は頷く。
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「はい」
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秘密を抱えたまま、
日常は静かに進んでいく。
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だが、その裏で、
“見られる準備”は確実に進んでいた
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