第56章「昼休みの会話と、言えない事実」
昼休み。
大学の食堂は、朝とは違う賑やかさに包まれていた。
トレーの音、笑い声、席を探す学生たち。
その中で、琉偉はいつものメンバーとテーブルを囲んでいた。
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廉斗、斗真、冬馬。
結衣、紗良、美月。
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すでに自然と“固定メンバー”になりつつある6人。
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「いただきます」
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軽く手を合わせ、それぞれが食べ始める。
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しばらくは何気ない会話。
講義の話、教授の癖、課題の量。
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だが――
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紗良がスマホを見ながら言った。
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「ねえこれ見て」
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テーブルの中央にスマホを向ける。
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そこには、巳波のXの投稿。
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『金曜日20時〜 大食い生配信やります!』
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結衣が反応する。
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「あ、これ朝見た!」
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美月も頷く。
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「結構バズってるね」
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廉斗が笑う。
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「この人ほんと人気だよな」
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斗真が少し身を乗り出す。
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「てかさ」
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「前の配信見た?」
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冬馬が短く答える。
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「ホラーのやつか」
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斗真は頷く。
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「そうそう」
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そして少しだけ声を落とす。
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「巳波さんの隣にいた男の声の人さ」
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一瞬、琉偉の手が止まる。
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斗真は続ける。
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「なんか、“大事な人”っぽくなかった?」
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結衣が首をかしげる。
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「そんなこと言ってたっけ?」
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紗良も考える。
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「でも、なんか距離近い感じはした」
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美月がゆっくり言う。
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「私、あの声……」
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少しだけ視線を泳がせる。
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「聞いたことあるような、ないような……」
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その言葉に、琉偉の心臓が一瞬強く跳ねる。
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(……ここに居ます)
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そう言いたかった。
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でも、言えない。
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言った瞬間に崩れるものが多すぎる。
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琉偉は何も言わず、ただ食事を続ける。
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廉斗が笑いながら言う。
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「彼氏とかじゃね?」
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斗真も続く。
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「いやでも隠してそうじゃない?」
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紗良が乗る。
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「秘密の恋人とか?」
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軽いノリの会話。
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でも、その中心にいるのは――
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琉偉自身。
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その時、スマホが震える。
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蒼と彩音からのLINE。
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『なあ、大食い配信って何やるの?』
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『メニューとか決まってんの?』
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琉偉は一瞬だけ止まる。
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(……知らない)
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正直に言えば、まだ何も聞いていない。
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少し考えてから、返信する。
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『まだ聞いてない』
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『帰ってから聞いてみる』
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すぐに既読がつく。
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『了解!』
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『楽しみにしてるわ』
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そのやり取りを終えたあと。
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再びテーブルの会話へ。
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「でさ、もし隣の人いたらどうする?」
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廉斗がふざけて言う。
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斗真が笑う。
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「声だけでもバレそう」
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美月が静かに言う。
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「でも、ああいう距離って……」
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少しだけ言葉を探す。
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「普通じゃないよね」
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その言葉に、誰も否定しない。
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琉偉は静かに箸を置く。
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(普通じゃない)
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分かっている。
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でも、それが“日常”になっている。
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誰にも言えないまま。
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秘密は、少しずつ近づいてきていた。
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