第54章「招待と、賑やかな夜の予感」
蒼と彩音が帰ったあとのリビングは、さっきまでの会話が嘘みたいに静かだった。
時計の音だけが、ゆっくりと流れている。
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ソファに腰掛けた巳波は、ふと琉偉の方を見る。
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「ねえ、携帯貸して」
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琉偉は少しだけ首を傾げながらも差し出す。
「どうぞ」
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巳波は慣れた手つきで操作し、幼馴染三人のLINEを開く。
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そしてそのまま通話ボタンを押した。
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数秒後。
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「もしもし?」
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蒼の声。
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続いて彩音。
「どうしたの急に――って……え?」
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画面の向こうに映ったのが巳波だと気づき、二人とも一瞬固まる。
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「こんばんは」
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落ち着いた声で巳波が言う。
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蒼が戸惑いながらも返す。
「え、あの……巳波さん?」
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彩音も慌てる。
「なんで琉偉の携帯から……」
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巳波は少しだけ笑う。
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「ちょっとね、直接話したくて」
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そして本題に入る。
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「明日か明後日なんだけど」
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「金曜日の夜に大食いの生配信やろうと思ってるの」
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一瞬の間。
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蒼が聞き返す。
「大食い……ですか?」
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「そう」
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巳波は軽く頷く。
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「で、来てもらえるかなって」
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彩音がすぐに反応する。
「え、行きます行きます!」
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蒼も続く。
「でも金曜って……」
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「仕事ある?」
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巳波が先に聞く。
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二人は同時に答える。
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「ないです!休みです!」
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その即答に、巳波は満足そうに笑う。
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「じゃあ決まり」
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「明後日、金曜日の夜8時くらいに家に集合ね」
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少しだけ声を強める。
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「約束よ?」
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蒼と彩音は揃って返す。
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「分かりました!」
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通話が切れる。
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静かになった部屋。
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巳波はスマホを琉偉に返しながら言う。
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「これで準備はOK」
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琉偉は少しだけ驚いた表情。
「大食い配信、やるんですね」
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巳波は軽く伸びをする。
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「たまにはね」
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そして、そのまま自然に距離を詰める。
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軽くキス。
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「手伝ってもらうからね」
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琉偉は頷く。
「もちろんです」
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少し間。
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巳波がふと呟く。
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「ねえ」
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「一緒にお風呂、入る?」
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聞き方は軽いのに、どこか確信めいている。
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琉偉が答える前に、巳波は立ち上がる。
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「ほら、行くよ」
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そのまま手を引く。
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脱衣所まで連れて行かれる形になる琉偉。
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「ちょっと待ってください」
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そう言いながらも、抵抗はしない。
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巳波はクスッと笑う。
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「素直だね」
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浴室。
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湯気が静かに広がる空間。
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二人は肩を並べて湯船に入る。
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しばらくは無言。
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ただ、水の音だけが心地よく響く。
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やがて巳波がぽつりと呟く。
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「なんかさ」
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「こういうの、普通っぽくていいね」
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琉偉はゆっくり頷く。
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「はい」
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「すごく」
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その一言に、巳波は少しだけ目を細める。
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「明後日、賑やかになるよ」
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「配信も、家も」
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琉偉は小さく笑う。
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「楽しみです」
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湯気の向こうで、二人の距離は変わらないまま、
静かに夜が深まっていった。
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