第51章「日常の中の距離」
ホラーゲーム配信が終わったあとの部屋は、まるで別世界みたいに静かだった。
さっきまで画面越しに響いていた悲鳴や効果音はもうどこにもない。
リングライトの柔らかい光だけが、二人の間の空気をゆっくりと照らしていた。
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「疲れた……」
巳波はソファに体を預けるようにして息を吐く。
琉偉は片付けながら、小さく頷いた。
「結構、怖かったですね」
「あなたが冷静すぎるのよ」
巳波は苦笑しながら、コップの水を一口飲む。
そのやり取りは、もういつもの日常の温度だった。
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夕飯の準備は静かに進んだ。
湯気の立つスープ、焼き魚、ご飯。
派手さはないけれど、不思議と落ち着く食卓。
“普通”という言葉が、こんなにも安心するものだと気づく時間だった。
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食べながら、巳波がふと視線を落とす。
そして、何でもないように言った。
「明日、グラビアじゃなくてアイドルの仕事」
琉偉は箸を止める。
「忙しいですね」
「まあね」
軽く笑って流すその声の奥に、少しだけ気合いのようなものが混じっていた。
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少しの沈黙のあと。
巳波は立ち上がり、琉偉の隣に自然と移動する。
距離が近くなる。
そして、何の躊躇もなく唇を重ねた。
軽いのに、少しだけ長いキス。
息が混ざるほどではないのに、確かに“気持ち”だけは深く残る時間。
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「……明日はちょっと遅くなる」
離れ際に、巳波は静かに言う。
「だから先にご飯食べてて」
琉偉は短く頷いた。
「分かりました」
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そして、少しだけ間。
巳波が首をかしげる。
「ねえ」
「一緒にお風呂、入る?」
その言葉は、冗談のようでいて、どこか自然だった。
琉偉は一瞬も迷わない。
「入ります」
即答。
あまりに早くて、巳波は思わず吹き出した。
「即答すぎ」
「普通に、その方がいいので」
琉偉は少しだけ視線を逸らす。
巳波は肩をすくめながら笑う。
「ほんと分かりやすいね」
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その後、二人は脱衣所へ向かう。
扉の前で、巳波がふと琉偉を見る。
「そんなに緊張してる?」
「いえ……緊張というより」
「近いです」
その言葉に、巳波は小さく笑った。
「今さらでしょ」
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湯気が満ちる浴室。
静かな水音だけが響く空間。
肩を並べて湯に浸かると、外の世界が少し遠くなる。
最初はほとんど会話もない。
ただ、同じ時間を共有しているだけの沈黙。
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やがて巳波が、少しだけ視線を横に向ける。
「ねえ」
琉偉が顔を向ける。
「私のこと、そんなに好き?」
軽い冗談のような声。
琉偉は一切迷わず答えた。
「はい」
「世界一大好きです」
その一言に、巳波は一瞬固まる。
そしてすぐに視線を逸らした。
「……なにそれ」
声が少しだけ小さくなる。
照れているのが隠しきれていない。
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琉偉はその横顔を見て、静かに続ける。
「今の顔も好きです」
「やめて」
即答で返されるが、声は柔らかい。
怒っているわけではないのが、余計に伝わる。
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しばらくして、巳波は小さく息を吐いた。
「ほんと、調子狂う」
そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。
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湯気の中、時間はゆっくりと流れていく。
琉偉がふと、真っ直ぐに言った。
「巳波さん」
「今のままでも、綺麗です」
その言葉に、巳波の動きが一瞬止まる。
「……それ、ずるい」
視線を落としたまま、小さく笑う。
そして、少しだけ肩の力を抜いた。
「今日はもう、これ以上しゃべらない」
そう言って湯に身を沈める。
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湯船の静けさは、さっきよりも柔らかかった。
言葉が少ないのに、距離だけが少しずつ近づいていく。
何も特別なことは起きていないのに、
この時間だけが、やけに特別に感じられた。
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