第50章「大学初日と、夜のホラー配信」
大学初日の空気は、想像以上に長く残るものだった。
講義、教室移動、初対面の会話、名前の確認。
それだけのはずなのに、琉偉の頭の中はずっとざわついていた。
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(人、多かったな……)
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廉斗、斗真、冬馬をはじめとした同級生たち。
まだ“友達”と呼ぶには早い距離感のまま、一日が終わった。
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夕方。
東戸塚の一軒家へ帰ると、扉の向こうから静かな気配がした。
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「おかえり」
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巳波がキッチンから顔を出す。
ラフな服装だが、どこか仕事モードの空気も残っている。
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「ただいま戻りました」
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琉偉は靴を脱ぎながら答える。
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巳波は軽く頷く。
「大学どうだった?」
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少し間。
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「思ったより、人が多かったです」
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巳波は小さく笑う。
「そりゃそうでしょ」
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そのまま二人はリビングへ。
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一日が終わった部屋は、少しだけ静かすぎる。
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ソファに座った巳波が、スマホを見ながら言う。
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「ねえ」
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琉偉が振り向く。
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「今日の夜、配信する」
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「ホラーゲーム」
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その言葉に、琉偉は少しだけ反応する。
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「ホラーですか」
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巳波は軽く頷く。
「久しぶりにやるやつ」
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少し間。
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そして、視線を上げる。
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「でね」
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「今日も、隣にいてほしい」
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琉偉はすぐには答えない。
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巳波は一歩近づく。
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そして、軽くキスをする。
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「……ん」
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短いのに、逃がさないような距離。
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離れたあと、巳波は静かに言う。
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「怖いのは苦手でしょ?」
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琉偉は小さく頷く。
「……少し」
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巳波は少しだけ笑う。
「じゃあちょうどいい」
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夜。
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配信部屋。
リングライトが点灯する。
モニターにはホラーゲームのタイトル画面。
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“深夜廃病院探索ゲーム”
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コメント欄はすでに動いている。
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《来た!》
《ホラー待ってた》
《隣の人いる?》
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巳波はマイクを調整しながら言う。
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「こんばんは」
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「今日はホラーゲームです」
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そして一度だけ横を見る。
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琉偉は静かに立っている。
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「今日も少しだけ、隣にいます」
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その一言でコメントが一気に加速する。
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《やっぱりいるの!?》
《恒例になってて草》
《声の人きた》
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ゲーム開始。
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廃病院の廊下。
暗い照明。
不気味な足音。
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巳波の操作は慎重だが、確実。
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「ここ、絶対何かいる」
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琉偉が小さく言う。
「左の扉、反応ありそうです」
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巳波は即座に動く。
「開けるね」
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扉が開く。
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効果音。
暗転。
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コメントが一気に流れる。
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《うわ来るぞ》
《絶対出るやつ》
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画面に“何か”が出る。
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巳波が一瞬だけ固まる。
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「……っ」
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琉偉がすぐ言う。
「後ろ逃げて」
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操作が切り替わる。
ギリギリ回避。
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コメント爆発。
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《連携すごい》
《声の人有能すぎ》
《普通に上手い》
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中盤。
探索が安定してくる。
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巳波の呼吸も少し落ち着く。
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「ねえ、今の怖かった」
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琉偉は淡々と答える。
「急に来ましたね」
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少しだけ笑いが入る。
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終盤。
ボス的存在。
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画面が赤くなる。
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巳波の声が少し上ずる。
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「これ無理かも」
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琉偉は短く言う。
「タイミング合わせればいけます」
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巳波は頷く。
「分かった」
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数秒後。
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撃破。
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“CLEAR”
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コメントが一気に爆発。
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《勝った!?》
《連携えぐい》
《この二人強すぎ》
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巳波は息を吐く。
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「……疲れた」
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琉偉は少しだけ笑う。
「お疲れさまです」
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配信終了。
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コメントが流れ続ける中、画面が暗転する。
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静寂。
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巳波は椅子から立ち上がる。
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琉偉の方へ振り返る。
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そして――
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「ありがとう」
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軽くキス。
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でも今日は少し違う。
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離れない。
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もう一度、少し深く。
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「今日も隣にいてくれて、ありがとう」
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琉偉は小さく頷く。
「はい」
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夜の部屋に残るのは、
ホラーの余韻ではなく、
確かな“日常”だけだった。
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