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第48章「大学前夜の静けさ」


夜の空気は、やけに静かだった。


引っ越しも落ち着き、東戸塚の一軒家はもう“仮住まい”ではなくなっている。


段ボールも減り、リビングには最低限の生活の跡だけが残っていた。



琉偉は自室の机に座っていた。


大学の入学式資料はすでに何度も確認している。


それでも手は止まらない。



(明日か……)



横浜国立大学。


その名前を口の中で静かに転がす。


現実なのに、まだ少しだけ遠い。



扉が軽く開く。


巳波が入ってくる。


髪は軽くまとめられ、部屋着のまま。



「まだ起きてたの?」



琉偉は振り向く。


「少しだけ確認してました」



巳波は机の資料を見る。


「何回目?」



「……三回目です」



巳波は小さく笑う。


「真面目すぎ」



そう言いながら、机の端に腰をかける。



少しの沈黙。



巳波が静かに言う。


「明日、入学式だね」



琉偉は頷く。


「はい」



「緊張してる?」



少し間。



「正直、少し」



巳波はその答えに軽く息を吐く。


「いいと思う」



琉偉が顔を上げる。



巳波は続ける。


「何も感じない方が怖いから」



その言葉は、妙に落ち着いていた。



琉偉は少しだけ視線を落とす。



「巳波さんは……来るんですよね」



巳波は即答しない。


少しだけ間を置く。



「行くよ」



短い返事。


でも迷いはない。



「親戚っていう形じゃなくてもいいけど」



少し笑う。



「ちゃんと見ていたいから」



琉偉は静かに頷く。



その時、巳波が少しだけ距離を詰める。



「ねえ」



琉偉が見る。



巳波は軽くキスをする。


短く、確かめるように。



「明日、ちゃんと行ってきて」



琉偉は小さく息を吐く。


「はい」




夜。



電気は落ち、部屋は暗い。


でも完全な静けさではない。



隣にいる気配が、確かにそこにある。



琉偉は天井を見ながら思う。



(ここから先は、もう“高校生”じゃない)



そしてその隣で、巳波も同じように目を閉じていた。



明日。



すべてが切り替わる日が、すぐそこまで来ていた。 



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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