第47章「新しい朝の形」
朝の光は、もう見慣れ始めていた。
それでも、まだ完全には“日常”と呼び切れない。
東戸塚の一軒家は、静かに時間を吸い込むように朝を迎えていた。
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キッチンから小さな音がする。
コップが置かれる音。
水が注がれる音。
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琉偉がリビングに出ると、巳波がすでに準備をしていた。
髪を軽くまとめ、ラフな部屋着のまま。
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「おはよう」
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自然な声。
昨日までの“芸能人”という距離は、もうほとんどない。
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「おはようございます」
琉偉も同じように返す。
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巳波はコーヒーを差し出す。
「今日は打ち合わせが昼から」
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「大学の準備は?」
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琉偉は少し考える。
「入学式の資料確認と、時間の最終チェックです」
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巳波は軽く頷く。
「いよいよだね」
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その言葉に、琉偉は少しだけ視線を落とす。
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(大学)
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現実なのに、まだ少し遠い。
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その時、巳波が少しだけ近づく。
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「ねえ」
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琉偉が見る。
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「ちゃんと見てるからね」
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短い言葉。
でも重さはある。
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琉偉は頷く。
「はい」
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少しの沈黙。
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そして、軽くキス。
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それはもう“儀式”のようになっていた。
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「行ってらっしゃい」
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「行ってきます」
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その日の昼。
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巳波は事務所へ向かい、琉偉は自室で大学資料を広げていた。
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封筒には「横浜国立大学 入学式案内」
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何度見ても現実感は薄い。
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その時、スマホが震える。
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蒼。
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『おい、いよいよだな』
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彩音。
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『大学生かぁ、早いねほんと』
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琉偉は少しだけ笑う。
「実感はまだない」
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蒼がすぐ返す。
『まあそうだろうな』
『お前は人生のイベント多すぎてバグってるから』
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彩音も続く。
『でもちゃんと見に行くよ、入学式』
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琉偉は少しだけ驚く。
「来るの?」
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『当たり前でしょ』
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そのやりとりの横で、
巳波からもメッセージが来る。
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『入学式、行くね』
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短い一文。
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でもそれだけで十分だった。
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琉偉は画面を見つめる。
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(全部が繋がってる)
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過去も、現在も、未来も。
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そして…“入口”は、もうすぐそこまで来ていた。
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