第43章「新しい部屋、新しい距離」
朝。
カーテンの隙間から入る光は、まだ慣れない部屋の壁に柔らかく反射していた。
昨日までとは違う匂い。
昨日までとは違う静けさ。
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東戸塚の一軒家。
その部屋の一つが、もう“生活の中心”になり始めている。
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キッチンの奥。
リビングの手前。
そして少し離れた小さな一室。
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そこが、巳波の“仕事部屋”だった。
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机の上には機材が並ぶ。
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・4K対応ミラーレスカメラ(SONY α7シリーズ)
・広角レンズ(配信用メイン)
・リングライト(大型LED調光式)
・デュアルモニター(配信管理・コメント確認用)
・高性能ゲーミングPC(配信用メイン機)
・キャプチャーボード(映像取り込み用)
・オーディオインターフェース(音声調整用)
・コンデンサーマイク(高感度配信用)
・マイクアームスタンド
・ノイズキャンセリングヘッドホン
・配信用ミキサー
・高速有線LAN回線ルーター(配信用専用回線)
・予備バッテリー・ケーブル一式収納ケース
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それらが整然と並び、もう“いつでも配信できる状態”になっている。
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巳波は部屋の中央で一度だけ見回す。
「……ちゃんと整ったね」
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そこに、琉偉が立っている。
まだ新しい部屋の空気に少しだけ慣れていない表情。
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朝の静けさの中で、琉偉はゆっくり近づく。
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「今日から、ここですね」
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巳波は頷く。
「そうだね」
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その瞬間。
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琉偉は一歩、距離を詰める。
そして――
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巳波の唇に触れる。
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最初は静かに。
次に少し強く。
そして長く。
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「……んっ……」
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巳波の呼吸が少し乱れる。
でも拒まない。
むしろ受け止めるように目を閉じる。
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琉偉は離れない。
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「今日からお願いします」
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そう言いながら、さらに深く。
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「……っ、ん……」
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巳波の声が少しだけ漏れる。
部屋の静けさが、そのまま二人だけの空気になる。
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ようやく離れたあと。
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琉偉は少しだけ息を整えて言う。
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「大好きです」
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間を置いて、もう一度。
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「本当に大好きです」
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巳波は一瞬だけ目を細める。
そして小さく笑う。
「急に真面目」
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琉偉は真剣なまま答える。
「ずっとです」
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巳波は少しだけ視線を逸らす。
そして軽く息を吐く。
「そういうの、困るんだけど」
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でもその声は柔らかい。
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そして巳波は、机の方へ向かう。
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配信機材を一つずつ確認しながら言う。
「ここ、これから配信部屋になるから」
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琉偉は後ろから見ている。
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巳波は続ける。
「次の配信、多分だけど」
「顔は出さないかもしれない」
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琉偉が少し顔を上げる。
「え?」
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巳波は振り返らずに言う。
「声だけ参加」
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少し間。
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「隣にいる人として」
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琉偉は黙る。
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巳波はようやく振り返る。
少しだけ微笑む。
「嫌?」
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琉偉は即答する。
「嫌じゃないです」
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少し考えてから続ける。
「でも……緊張します」
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巳波は軽く笑う。
「それでいい」
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そして一歩近づく。
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今度は巳波の方から。
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琉偉の唇に触れる。
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短く。
でも確かに温度のあるキス。
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「……ん」
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離れたあと、巳波は言う。
「じゃあ次の配信、よろしくね」
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琉偉は小さく頷く。
「はい」
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もうそこには“仮の関係”はない。
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ただ、新しい生活の音だけが静かに流れていた。
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