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第42章「選ばれた場所」


夜の会議室は、昼間とは違う顔をしていた。


照明は落ち着き、窓の外には横浜の灯りが静かに広がっている。



㍿龍雷神・上層階会議室。


テーブルの上には、いくつかの物件資料が並んでいた。



優斗はその一枚を指で軽く叩く。


「ここだな」



巳波が視線を落とす。


「ここ、ですか」



優介が横から資料を覗き込む。


「東戸塚か」



雷斗が頷く。


「バランスはいいですね。アクセスも悪くない」



優斗は淡々と続ける。


「羽沢横浜国大駅と北鎌倉駅の間」


「大学への距離も極端に近すぎない」



少し間。



「そして何より」


優斗は視線を上げる。


「セキュリティ面が一番安定している」



巳波は静かに聞いている。



優介が少し笑う。


「さすがに芸能人と同居する前提で選ぶと、普通の物件じゃ無理だな」



雷斗も頷く。


「撮影スケジュールと移動も考えると、このラインが現実的ですね」



優斗は続ける。


「ここは以前から候補に入れていた」


「ストーカー被害の動線も少ない」



その言葉に、会議室の空気が少しだけ締まる。



巳波はゆっくり息を吐く。


「ありがとうございます」



優斗は軽く頷く。


「決めるのは本人たちだが」


「環境だけは整えておく」



その言葉は、冷たくなく、むしろ優しさに近かった。



だが、その決定はまだ――琉偉には伝わっていない。



数日後。



カラオケでの出来事のあと。



琉偉はスマホを見ながら物件情報を探していた。



「このへんかな……」


独り言のように呟く。



巳波からのメッセージ。


『場所、もう決まってるよ』



琉偉は一瞬止まる。



「……決まってる?」



すぐに電話をかける。



「もしもし」


『もしもし』



琉偉は少しだけ焦りを混ぜて言う。


「物件、もう決まってるんですか?」



巳波は落ち着いた声で答える。


「うん」



「でも、それあなたにちゃんと説明してなかったね」



少しの間。



巳波は続ける。


「東戸塚」



琉偉は聞き返す。


「東戸塚?」



「うん」


巳波の声は静かだ。


「北鎌倉と大学の間くらい」



琉偉は少し黙る。



「……なんでそこに?」



巳波は少しだけ間を置く。


そして答える。



「優斗さんが選んでくれた」



その名前に、琉偉は一瞬止まる。



「父さんが……?」



『うん』



巳波は続ける。


「セキュリティのこと、全部考えてくれてた」


「大学の近すぎも避けてくれて」


「生活のバランスも」



琉偉はゆっくり息を吐く。



「そこまで……」



巳波は少しだけ柔らかく言う。


「あなたが思ってるより、ちゃんと周りは動いてるよ」



琉偉は黙る。



そして小さく言う。


「ありがとうございます」



巳波は軽く笑う。


「私じゃなくて、優斗さんに言ってあげて」



少しの沈黙。



琉偉はスマホを握り直す。



(知らないところで、もう全部進んでる)



でも不安ではない。



むしろ。



「ちゃんと守られてる」


そう感じていた。



その夜。



巳波の部屋。


窓の外には横浜の光。



琉偉との通話。



「そこに住むの、少し楽しみです」



巳波は少し笑う。


「やっと“生活”って感じだね」



琉偉は頷く。


「はい」



巳波は静かに言う。


「じゃあ次は引っ越しだね」



その言葉で、


二人の未来はもう完全に“日常側”へと移っていった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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