第41章「仮面の終わりと、新しい日常」
卒業式が終わった街は、まだ少しだけざわついていた。
けれど、その喧騒から少し離れた場所では、もう別の時間が流れていた。
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誰もいないカラオケ店。
薄暗い廊下。
静かな個室。
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ドアを閉めた瞬間、外の世界が完全に切り離される。
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「……終わりましたね」
琉偉が椅子に座りながら言う。
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巳波はリモコンを手に取り、軽く笑う。
「長かったね、今日」
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画面に曲名が表示される。
最初の曲が流れる。
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普通のカラオケ。
普通の時間。
でも、ここにいる二人だけは違っていた。
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巳波がマイクを持つ。
「ねえ」
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琉偉が振り向く。
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「もういいよね」
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その一言は静かだった。
でも意味は明確だった。
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“親戚の時間は終わり”
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琉偉は一瞬だけ黙る。
そして頷く。
「……はい」
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空気が変わる。
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巳波は小さく息を吐く。
「さっきまで、ちょっと疲れた」
「親戚って言うの、意外と大変」
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琉偉は少しだけ笑う。
「すごく自然でしたけど」
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「仕事だからね」
巳波は軽く言う。
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でも次の瞬間。
声が少しだけ柔らかくなる。
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「じゃあ戻ろうか」
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「……戻る?」
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巳波は琉偉を見て、静かに言う。
「夫婦に」
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その瞬間。
空気がはっきり変わる。
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琉偉は少しだけ息を吸う。
「はい」
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短い返事。
でも迷いはない。
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音楽が流れている中で、
二人だけが別の世界にいるようだった。
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巳波がマイクを置く。
そして一歩近づく。
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「卒業、お疲れさま」
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「ありがとうございます」
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少しの沈黙。
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そして巳波は軽く、唇を重ねる。
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“軽いキス”
短く、確認のように。
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「……ん」
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離れたあと、琉偉は少しだけ目を細める。
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そして、今度は自分から近づく。
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「じゃあ」
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巳波が少しだけ笑う。
「なに?」
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琉偉は何も言わずに、
今度はしっかりと――唇を重ねる。
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“濃いキス”
時間を止めるような。
でも、優しい確信だけがある。
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「……んっ」
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離れたあと、巳波は少しだけ息を整える。
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「やっと戻ったね」
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琉偉は小さく頷く。
「戻りました」
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音楽はまだ流れている。
でももう関係ない。
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スマホが鳴る。
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物件情報。
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巳波が画面を見る。
「ねえ」
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琉偉も覗く。
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「横浜国立大学の近く」
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「一軒家」
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巳波は軽く笑う。
「決めていい?」
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琉偉は即答する。
「お願いします」
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少しの沈黙。
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巳波はもう一度琉偉を見る。
そして静かに言う。
「ここからが本番だね」
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琉偉も頷く。
「はい」
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カラオケの小さな部屋の中で、
二人の“仮の関係”は完全に終わり、
新しい生活だけが始まろうとしていた。
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