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第38章「明日の役割」


夜。


部屋の灯りはすでに落ちかけていた。


静かな時間の中で、スマホだけが小さく光る。



着信。


巳波。



「もしもし」


『もしもし』


琉偉の声は、いつもより少しだけ低かった。



巳波はすぐに本題に入る。


「明日のことなんだけど」



琉偉は姿勢を正すように座り直す。


「はい」



少し間。


巳波は、いつもよりゆっくりと言葉を選ぶ。


「グラビアアイドルの東雲巳波として行くね」



琉偉は一瞬だけ息を止める。


「……はい」



巳波は続ける。


「だから、もちろん」


少しだけ間を置く。


「夫婦としてじゃなくて」



声が静かに落ちる。



「親戚がいる設定で」



琉偉は小さく頷くように返事をする。


「……分かってます」



巳波の声は少しだけ柔らかくなる。


「こういうの、慣れてると思われがちだけど」


「実はちゃんと毎回考えてるの」



琉偉は少しだけ黙る。


そして言う。


「無理してませんか」



その問いに、巳波は少しだけ笑う。


『優しいね』



「無理はしてない」


すぐに続ける。


「ただ、仕事だから」



琉偉は静かに聞いている。



巳波が続ける。


「明日はね」


「あなたの“卒業の日”でもあるけど」



少し間。



「私にとっても、ひとつの区切りの日になると思う」



琉偉はゆっくり息を吐く。


「区切り、ですか」



「うん」


巳波ははっきり言う。


「今の関係を壊すわけじゃないけど」


「見られる形は変わるから」



琉偉は少しだけ視線を落とす。



「……不安ですか」



巳波は一瞬黙る。


そして正直に言う。


「少しだけ」



その一言が、逆にリアルだった。



でもすぐに続ける。


「でもね」



声が少しだけ強くなる。


「あなたがちゃんと“立ってる日”だから」


「私はそこにちゃんと行く」



琉偉は小さく息を吸う。



「来てくれて、嬉しいです」



巳波は少しだけ笑う。


「それ、今言う?」



「今しか言えないので」



少しの沈黙。



巳波が静かに言う。


「じゃあ明日ね」



琉偉は頷く。


「はい」



巳波は最後に一言だけ付け足す。


「ちゃんと“親戚の東雲巳波”で行くから」


「変な緊張しないで」



琉偉は少しだけ笑う。


「無理だと思います」



巳波も小さく笑う。


「だよね」



通話終了。



部屋が静かになる。



琉偉はスマホを見たまま、しばらく動かない。


(明日)



卒業式。


そして――


“見られる関係としての巳波”。



その夜は、いつもより少しだけ長く感じた。    



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