第37章「最後の平日」
卒業式まで、あと数日。
それなのに、学校の空気はもう“授業”をしていなかった。
どこか浮ついていて、どこか静かだった。
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昼休み。
食堂の一角。
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蒼がトレーを置きながら言う。
「なあ琉偉、ほんとにさ」
「卒業したらすぐ同居なんだろ?」
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琉偉は少し間を置く。
「予定では、そう」
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彩音がフォークを止める。
「予定ではってことは、まだ変わる可能性あるの?」
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琉偉は首を振る。
「ほぼ決まってる」
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蒼が笑う。
「もう普通の高校生の話じゃねぇな」
「人生の進行速度バグってるだろ」
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琉偉は少しだけ視線を落とす。
「でも、普通のことだと思ってる」
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彩音が小さく首をかしげる。
「普通って何基準?」
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琉偉はすぐに答えない。
少し考えてから言う。
「ちゃんと選んでるかどうか」
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蒼が一瞬黙る。
そして、笑う。
「……かっけぇこと言うじゃん」
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その頃。
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巳波の撮影現場。
休憩室。
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スタッフが慌ただしく動く中、巳波は静かに椅子に座っていた。
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マネージャーの雷斗が声をかける。
「卒業式、もうすぐですね」
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巳波はスマホを見たまま言う。
「はい」
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雷斗が少し笑う。
「緊張してます?」
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巳波は一瞬だけ止まる。
そして答える。
「私じゃなくて、彼の方が緊張してると思います」
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雷斗が吹き出す。
「まあ、確かに」
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巳波は続ける。
「でも、ちゃんと行きます」
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雷斗は資料を閉じる。
「それが一番ですね」
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夜。
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琉偉の部屋。
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机の上には卒業関連のプリント。
でも目はそこにない。
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スマホが鳴る。
巳波。
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「もしもし」
『もしもし』
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少しの沈黙。
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巳波が先に言う。
「卒業式、緊張してる?」
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琉偉は正直に答える。
「少し」
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巳波が小さく笑う。
「“少し”なんだ」
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「はい」
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また沈黙。
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巳波が続ける。
「私はね」
「ちょっとだけ楽しみ」
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琉偉は少しだけ驚く。
「楽しみなんですか」
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「うん」
巳波ははっきり言う。
「あなたの“終わり”と“始まり”を同時に見れる日だから」
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その言葉に、琉偉は言葉を失う。
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少ししてから言う。
「重いですね」
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巳波は笑う。
「重くしたの、あなたでしょ」
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琉偉は小さく息を吐く。
「……そうかもしれないです」
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巳波が優しく言う。
「だから、ちゃんと見に行く」
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「はい」
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通話が終わる。
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夜。
静かな部屋。
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琉偉は天井を見ている。
(卒業)
ただの通過点のはずなのに。
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でもその向こうに、確かに“新しい生活”がある。
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そして同時に思う。
(全部、ここから変わる)
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窓の外は静かだった。
でもその静けさは、もう“終わりの前触れ”だった。
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