第36章「終わりが近づく日常」
教室の空気は、いつもと同じようで少し違っていた。
黒板の文字は変わらない。
チャイムも変わらない。
それでも――時間だけが確実に“終わり”へ向かっている。
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蒼が窓際であくびをしながら言う。
「卒業式ってさ、実感湧く?」
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彩音はノートを閉じる。
「まだ全然」
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琉偉は少し遅れて答える。
「……多分、直前になってから」
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蒼が笑う。
「お前はもう人生イベント進みすぎてて、卒業の優先度低そう」
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「低くはない」
琉偉は即答する。
「でも、通過点でもある」
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その言葉に、彩音が小さく頷く。
「大人っぽいこと言うね」
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琉偉は少しだけ視線を落とす。
(通過点)
その言葉は、昔より重く感じる。
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その頃。
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巳波の現場。
撮影前の控室。
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マネージャーの雷斗が資料を確認しながら言う。
「卒業式の時期、被ってますね」
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巳波は鏡を見ながら答える。
「分かってます」
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雷斗が軽く笑う。
「見に行くんですか」
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少しの間。
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「行きます」
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短い返事。
でも迷いはない。
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雷斗は資料を閉じる。
「じゃあスケジュール調整します」
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巳波は鏡の中の自分を見つめる。
(卒業)
それは彼の人生の節目でもある。
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その夜。
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琉偉の家。
夕食後。
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父・優斗が新聞を畳みながら言う。
「もうすぐ卒業か」
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母・聖樹が頷く。
「早いわね」
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姉・美紗都が笑う。
「ほんとあっという間」
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兄・優介は静かに言う。
「ここからが本番だな」
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琉偉はその言葉に、少しだけ頷く。
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(本番)
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スマホが震える。
巳波から。
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『卒業式、行くね』
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短いメッセージ。
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琉偉は一瞬だけ息を止める。
そして返す。
「はい」
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画面の向こうで、すべてが同じ方向へ揃い始めていた。
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