第34章「準備という名の静かな進行」
朝。
冬でも春でもない中途半端な空気が、街の色を曖昧にしていた。
その曖昧さは、琉偉の心の中にもあった。
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教室。
いつもの席。
いつもの蒼と彩音。
黒板の文字も、先生の声も、ただの背景になっていく。
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「おはよ」
蒼が軽く手を上げる。
「おはよう」
琉偉も短く返す。
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彩音が机に肘をつきながら言う。
「最近さ」
「なんか落ち着いてきたよね」
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蒼も頷く。
「全部一回爆発した後の静けさって感じ」
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琉偉は少しだけ考えてから言う。
「多分、形が決まってきたから」
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「形?」
彩音が首を傾げる。
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「住む場所とか」
「大学とか」
「全部」
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蒼が口笛を吹く。
「もう完全に人生設計入ってるじゃん」
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琉偉は否定しない。
むしろ、それが現実だった。
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その頃。
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㍿龍雷神。
オフィスフロアの一角。
窓際の会議スペース。
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優斗は資料を見ながら言う。
「大学は決めたのか」
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優介が端末を操作しながら答える。
「いくつか候補はあるな」
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そこに巳波が静かに入ってくる。
「おはようございます」
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雷斗が軽く手を振る。
「ちょうど話してました」
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巳波は椅子に座る。
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優斗が続ける。
「住む場所の件だが」
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巳波は頷く。
「進めています」
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「セキュリティ面と距離を考えて」
少しだけ間。
「候補はいくつか」
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優介が少し笑う。
「ほんとに動き早いな」
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巳波は淡々と答える。
「必要なことなので」
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雷斗が補足する。
「もう“準備段階”は超えてますね」
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優斗は腕を組む。
「……若いのに現実的だな」
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その言葉に、巳波は少しだけ目を細める。
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「現実にしないと、壊れますから」
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静かな一言。
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その夜。
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琉偉の家。
夕食後。
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母・聖樹が言う。
「大学の話、ちゃんと考えてる?」
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「うん」
琉偉は即答する。
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姉・美紗都が横から言う。
「ほんとに一人暮らしとかするの?」
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「一人じゃない」
琉偉は静かに言う。
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その言葉に、兄・優介が軽く笑う。
「まあ、そうなるよな」
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父・優斗は黙っている。
だが、否定はしない。
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少しだけ間を置いて言う。
「無理はするな」
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「しない」
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短い会話。
でも、それで十分だった。
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その夜遅く。
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巳波の部屋。
照明は落とされている。
スマホだけが光っている。
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通話。
「もしもし」
『もしもし』
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「今日は静かだったね」
『うん』
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少しだけ沈黙。
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「もうすぐだね」
『うん』
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“同居”
その言葉はまだ出ていない。
でも、もうそこにある。
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琉偉は少しだけ息を吐く。
「ちゃんとやれそうです」
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巳波は少し笑う。
『私も』
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短い沈黙。
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そして同時に。
「おやすみ」
『おやすみ』
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通話終了。
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画面が暗くなる。
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それぞれの場所で。
同じ未来の準備だけが、静かに進んでいた。
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