第33章「それぞれの場所で進む現実」
朝の教室は、いつも通り騒がしかった。
椅子を引く音、プリントの配布、笑い声。
そのどれもが、琉偉には少し遠く感じる。
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「おはよー琉偉」
蒼が隣の席に座る。
「おはよう」
琉偉は淡く返す。
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彩音も後ろから顔を出す。
「昨日どうだった?」
その一言で、少しだけ空気が変わる。
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琉偉は短く言う。
「話した」
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蒼がすぐに反応する。
「……家族に?」
「うん」
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一瞬、沈黙。
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「マジでやったんだな」
蒼が苦笑する。
「優斗さんってあの頑固そうな人だろ?」
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「うん」
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彩音が小さく目を丸くする。
「で、どうだったの」
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琉偉は少しだけ視線を上げる。
「ちゃんと聞いてくれた」
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その言葉に、蒼が驚いたように息を漏らす。
「え、マジかよ」
「優介さんも?」
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「納得してた」
琉偉は静かに言う。
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彩音が少しだけ笑う。
「すごいね、それ」
「聖樹さんと美紗都さんも?」
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「うん」
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蒼は椅子にもたれながら呟く。
「なんかもう現実だな、それ」
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琉偉は何も言わない。
でも否定もしない。
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その頃。
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㍿龍雷神・本社ビル。
ガラス張りの会議室。
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父・優斗と兄・優介は、資料を前にしていた。
そこにいるのはもう一人。
筒香雷斗。
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「……なるほど」
雷斗が資料を閉じる。
「整理は進んでるみたいですね」
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優斗は腕を組む。
「大学進学と同時に同居か」
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優介が軽く頷く。
「現実的ではあるな」
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そこへ。
ドアが開く。
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東雲巳波が入ってくる。
髪を軽くまとめ、落ち着いた雰囲気。
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「お待たせしました」
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雷斗が軽く手を上げる。
「ちょうど話してたところです」
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巳波は小さく頷く。
「琉偉さんの件ですか」
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優斗が視線を向ける。
「そうだ」
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巳波は少しだけ間を置く。
「彼は就職せずに大学へ進学します」
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「その後」
続ける。
「入学と同時に、2人で暮らす形を考えています」
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室内が少し静かになる。
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優介が軽く息を吐く。
「本気だな」
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雷斗が頷く。
「いい方向だと思いますよ」
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巳波も静かに続ける。
「無理のない形で生活を作っていくつもりです」
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優斗はしばらく黙る。
そして――
小さく息を吐く。
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「……分かった」
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その一言で空気が少しだけ緩む。
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優介が横で呟く。
「ちゃんと動いてるな」
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巳波は軽く頭を下げる。
「ありがとうございます」
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その夜。
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それぞれの場所。
それぞれの部屋。
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琉偉は自室でスマホを見ている。
蒼と彩音と今日の話を思い返す。
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そして、少しだけ笑う。
(ちゃんと進んでるな)
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その頃。
巳波の部屋。
静かな光の中でスマホを手に取る。
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通話。
「もしもし」
『もしもし』
琉偉の声。
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「今日どうだった?」
『いつも通りです』
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少しだけ沈黙。
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でも、その沈黙はもう不安ではない。
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「じゃあ」
巳波が小さく言う。
「進んでるね」
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『はい』
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短く、でも確かに。
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それぞれの場所で。
同じ方向へ、少しずつ進んでいた。
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