第32章「それぞれの場所、同じ現実」
家族面談が終わった夜は、妙に静かだった。
さっきまでの緊張が嘘のように、リビングには柔らかい空気だけが残っている。
巳波はソファに軽く座り直し、少しだけ息を吐いた。
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「……みなさんの仕事、少し聞いてもいいですか?」
その一言に、全員が反応する。
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まず父・優斗が頷く。
「俺は㍿龍雷神の人事部だ」
続けて兄・優介も軽く手を挙げる。
「同じ会社。海外事業部」
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巳波は少し目を細める。
「龍雷神……かなり大きい会社ですね」
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母・聖樹が微笑む。
「私はルクシア株式会社よ」
姉・美紗都も続ける。
「同じくルクシア。経理部の経理課」
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巳波は軽く頷く。
「皆さん、大手企業ですね」
淡々とした口調だが、しっかりとした理解がある。
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琉偉は横で静かに聞いていた。
(ちゃんとした家庭なんだよな、うち)
改めて実感する。
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そして巳波は続ける。
「ちなみに」
「私のマネージャーの筒香雷斗も」
少しだけ間を置く。
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「㍿龍雷神の芸能音楽部、アイドル部門と俳優女優マネジメント課に所属しています」
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父・優斗が少しだけ眉を上げる。
「……うちの会社か」
兄・優介も軽く笑う。
「繋がってるな」
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巳波は軽く頭を下げる。
「今日は突然お邪魔してすみませんでした」
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母・聖樹が優しく笑う。
「もういいのよ。話はちゃんと聞けたし」
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姉・美紗都も少し落ち着いた表情になる。
「いやほんと、現実感まだないけどね」
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空気は少しずつ“日常”に戻っていく。
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やがて時間が経ち、巳波は立ち上がる。
「そろそろ失礼します」
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父・優斗が短く言う。
「気をつけて」
母も軽く頭を下げる。
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玄関。
靴を履く巳波。
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その横で琉偉は一歩近づく。
何も言わずに――
唇を重ねる。
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「……ん」
短く、でも確かなキス。
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離れたあと、巳波は少しだけ目を細める。
「帰るだけなのに大げさ」
「……いつものです」
琉偉は淡々と答える。
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「じゃあ、また」
「はい」
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扉が閉まる。
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その夜。
巳波は実家へ戻り、自室でスマホを手に取る。
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通話。
「もしもし」
『もしもし』
琉偉の声。
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少しだけ沈黙。
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「今日はありがとう」
『いえ』
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「大丈夫だった?」
『……たぶん』
少しだけ迷う声。
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巳波は小さく笑う。
「“たぶん”ね」
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『でも、ちゃんと話せました』
「うん」
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短い沈黙。
でも、安心した空気。
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「おやすみ」
『おやすみなさい』
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通話終了。
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それぞれの部屋。
それぞれの距離。
それでも――
確かに同じ“現実”の中にいた。
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