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第31章「生活という現実」


夜のリビングには、まだ重い空気が残っていた。


けれどさっきまでの“衝撃”は少しずつ形を変え始めている。


驚きは消えていない。


ただ――現実としてそこに置かれ始めていた。



琉偉は、ゆっくりと口を開く。


「……もう一つ、話があります」


父・優斗が視線を向ける。


母・聖樹も姿勢を正す。


姉・美紗都と兄・優介も黙る。



「結婚している以上」


一度息を吸う。


「これからは、ちゃんと2人で暮らす形にしたいです」



一瞬、空気が動く。



「2人暮らし?」


母が小さく聞き返す。



琉偉は頷く。


「今のままだと、行き来だけになってしまうので」



兄・優介が腕を組む。


「まあ、普通に考えたらそうなるな」



姉・美紗都は眉をひそめる。


「でも相手芸能人でしょ?簡単に住めるの?」



その問いに、琉偉は少しだけ間を置く。



「新しい家を借りたいです」



父・優斗が静かに聞く。


「場所は?」



「まだ決めてないです」


正直に答える。



母・聖樹が少し不安そうに言う。


「お金は?」



その瞬間、部屋の空気が現実に引き戻される。



琉偉は一度うつむく。


そして、顔を上げる。



「高校卒業したら」


はっきりとした声。


「就職はしません」



一瞬、父の表情が動く。



「大学に行きながら」


続ける。


「アルバイトとかで、自分の貯金でやりくりします」



姉・美紗都が目を見開く。


「え、ちゃんと考えてるのそれ?」



「考えてます」


即答。



琉偉は言葉を続ける。


「もちろん、足りない時は」


少しだけ間。


「お願いすることもあると思います」



その言葉は、弱さではなく“責任”だった。



沈黙。



父・優斗がゆっくり息を吐く。


「……甘い考えではないな」



兄・優介が小さく笑う。


「でも現実的でもある」



母・聖樹は少し不安そうにしながらも、目を逸らさない。



姉・美紗都がぽつりと言う。


「ほんとにその人のためにそこまでやるの?」



琉偉は一瞬だけ迷う。


でも、すぐに答える。



「はい」



その一言は、やけに静かだった。



部屋が再び沈黙する。



父が椅子に背を預ける。


「……分かった」



その言葉に、空気が少しだけ動く。



母が小さく息を吐く。


「すぐ全部は無理よ」



「分かってます」


琉偉は頷く。



兄・優介が腕を組んだまま言う。


「まあ、最初から完璧なんて無理だろ」



姉・美紗都も少しだけ肩を落とす。


「ほんとに現実になってきた感じするね」



その時。


巳波が静かに口を開く。



「住む場所については」


視線が集まる。



「こちらでも準備できます」



父が眉を上げる。


「準備?」



巳波は淡々と続ける。


「仕事上の安全面も含めて、環境は必要なので」



その言葉で、また“芸能人の現実”が戻ってくる。



母が小さく呟く。


「……ほんとに別世界ね」



琉偉はその場で軽く息を吐く。



(でも、これでいい)



まだ全部は決まっていない。


それでも――


“始まってしまった現実”だけは、確実にそこにあった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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