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第27章「言えない一言の重さ」


翌朝。


空はやけに澄んでいた。


なのに、琉偉の胸の中だけはずっと曇っている。


(……今日だな)


そう思った瞬間から、時間の流れが少しだけ遅く感じる。



朝食の席。


父、母、姉、兄。


いつも通りの光景。


味噌汁の湯気。


テレビのニュース。


何も変わらないはずの朝。



「琉偉、最近帰り遅くない?」


母が何気なく言う。


「……部活とかじゃないだろ?」


父が続ける。


一瞬、空気が止まる。



「……まあ」


琉偉は箸を止める。


「ちょっと色々あって」


曖昧に濁す。



姉が軽く笑う。


「彼女でもできた?」


「……違う」


即答。


でも、否定が少しだけ早すぎた。



その瞬間。


兄が小さく笑う。


「怪しいなそれ」


「いやほんとに違うって」



(……違う、か)


心の中で自分に突っ込む。


もう“違う”と言い切れる関係ではない。



朝食後。


玄関。


靴を履く手が少しだけ止まる。


(言うか)


(今日か)



スマホが震える。


巳波。


『おはよう』


短いメッセージ。



『今日、言う日だね』


その一文で全部バレている。



「……はい」


返す。



すぐに返信。


『大丈夫』


『一人じゃないよ』



その言葉だけで、少しだけ呼吸が楽になる。



学校。


教室はいつも通り騒がしい。


でも琉偉の耳には遠く感じる。



「おい琉偉」


蒼が後ろから声をかける。


「今日やるんだろ」


「……ああ」


短く答える。



彩音も小さく頷く。


「逃げないんだね」


「逃げたくないだけ」



一瞬の沈黙。



蒼が小さく笑う。


「じゃあ、俺らも黙ってる」


「……助かる」



昼休み。


屋上。


風が強い。



琉偉はスマホを握ったまま、しばらく動かない。


(どう言うか)


(どこまで言うか)



現実はシンプルなのに、言葉にすると複雑になる。



その頃。


巳波の事務所。


雷斗が資料を見ながら言う。


「今日ですか?」


「うん」


巳波は静かに答える。



「大丈夫ですか」


「大丈夫じゃないかも」


少しだけ笑う。


「でもやる」



雷斗は軽くため息をつく。


「……まあ、あの子なら支えるでしょ」


「うん」


即答。



夕方。


琉偉は帰路につく。


足取りはいつもより重い。



家が見える。


(ここだ)



玄関の前で一度止まる。


息を吸う。


吐く。



「……ただいま」


扉を開ける。



中では、家族の声。


いつも通り。


でも今日は違う。



琉偉はゆっくりリビングへ向かう。


その手には、何も持っていない。


ただ一つだけ。


“言葉”だけを握っていた。 



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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