第26章「二人の部屋という現実」
夜。
配信が終わったあとの空気は、少しだけ静かだった。
巳波の部屋には、まだPCの光だけが残っている。
コメントの余韻は、もう消えている。
(……終わった)
画面を閉じた瞬間、ようやく息が抜ける。
⸻
スマホが震える。
着信。
「……琉偉」
その名前を見て、すぐに通話を取る。
「もしもし」
『もしもし』
いつもの声。
でも少しだけ違う。
⸻
「配信見てました」
『うん』
短い返事。
「お疲れさまです」
『ありがとう』
⸻
少しの沈黙。
そのあと、巳波が先に言った。
「ねえ」
「はい」
⸻
「そろそろさ」
一瞬だけ間。
「二人の部屋、欲しい」
⸻
その言葉は、静かだったのに重かった。
琉偉はすぐに返せなかった。
(……二人の部屋)
つまり。
今の“行き来する関係”ではなくなるということ。
⸻
「……いいと思います」
ようやく出た言葉。
『ほんと?』
「はい」
⸻
でも、すぐに続ける。
「ただ」
少しだけ声を落とす。
「その前に」
『うん』
⸻
「結婚してること」
「ちゃんと家族に言った方がいいです」
⸻
電話の向こうで、巳波が静かになる。
少しだけ風の音。
考えている気配。
⸻
『……そうだね』
短く返事。
でも、迷いはない。
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「今のままだと」
琉偉は続ける。
「部屋を作っても、完全には動けないですし」
『うん』
⸻
『ちゃんと整理しないとね』
巳波の声が少しだけ落ち着く。
⸻
「……誰に言うかも」
『うん』
「大事だと思います」
⸻
少しの沈黙。
そして巳波は小さく笑う。
『真面目だね』
「普通だと思います」
『普通じゃないよ』
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でも、その声は優しい。
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『じゃあ』
巳波が言う。
『決めようか』
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その言葉で、空気が変わる。
軽い話ではなくなる。
“次の段階”の話になる。
⸻
「……はい」
琉偉も真剣に返す。
⸻
『まずは家族だね』
「はい」
⸻
『どこまで話すかも含めて』
「……全部は無理でも」
『うん』
⸻
短い沈黙。
でも、その沈黙はもう“逃げ”ではない。
決断の間だった。
⸻
『ねえ琉偉』
「はい」
⸻
『怖くない?』
少しだけ柔らかい声。
⸻
琉偉は少しだけ考えてから答える。
「怖いです」
正直に。
⸻
「でも」
すぐに続ける。
「今のままの方が、もっと怖いです」
⸻
その言葉に、巳波は少しだけ黙る。
⸻
『……そう』
小さく笑う。
『じゃあ同じだね』
⸻
「同じですか?」
『うん』
⸻
『私も怖いけど』
『今のままは、もっと嫌』
⸻
その一言で、決まった気がした。
⸻
通話の最後。
『じゃあ、少しずつ進めよう』
「はい」
⸻
電話が切れる。
⸻
その夜。
琉偉は部屋の天井を見ていた。
(家族に言う)
簡単なことではない。
でも避けられない。
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リビングではまだ家族がいる。
父、母、兄、姉。
いつも通りの空気。
⸻
(ここからだな)
小さく息を吐く。
⸻
その頃。
巳波の部屋。
スマホを置きながら、静かに窓を見る。
夜景が滲む。
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「二人の部屋か……」
小さく呟く。
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もう戻れない。
でも。
もう一人じゃない。
⸻
静かな夜に、次の選択だけが確かに残っていた。
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