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第25章「約束の形と、広がる世界」


数日後。


静かだった時間が、少しだけ動き始めていた。


琉偉の部屋。


机の上に置かれた一冊の写真集。


まだ正式発売前の、サンプル版。


表紙には――東雲巳波。


いつも通りの“仕事の顔”。


それでも、どこか距離が近い気がした。



「……これ」


巳波が隣に座る。


「できたよ」


「……本当に」


琉偉は少しだけ息を呑む。


「約束通り」


軽く笑う。



ページをめくる。


一枚ずつ。


光の使い方も、構図も、すべてが完成されている。


(……すごいな)


ただのファン目線でもそう思う。


でも。


それだけじゃない。



「これ」


琉偉はゆっくり言う。


「絶対売れます」


「いつも売れてるよ」


軽く返す。



少しの沈黙。


そして琉偉は、真顔で言う。


「……保存用と保管用と観賞用と読む用で」


「またそれ?」


巳波が小さく笑う。



「4冊買います」


「多い」


即答。



でも、琉偉は続ける。


「あと」


少しだけ真剣な目。


「1冊ごとに、握手会みたいなの出来ませんか」


「……は?」


巳波が一瞬止まる。



「いや、買う人の特典みたいな」


「ファンの人喜ぶと思うので」


「……急にビジネスの話?」


「真面目です」



巳波は少しだけ考える。


そしてスマホを取り出す。


「雷斗に聞く」



通話。


「もしもし」


『どうした』


「握手会、追加特典つけたいんだけど」


『……何その急な話』



琉偉は横で固まる。


(ほんとに聞くんだ)



数秒後。


『別にいいんじゃない?』


雷斗の声。


『むしろ話題になる』



「だって」


巳波が言う。


「だってさ」


『ありだと思う』


即答。



通話終了。



「……通った」


巳波が琉偉を見る。


「やば」


琉偉が素で言う。



「じゃあ」


少しだけ考える。


「設定決めるね」



その後。


握手会の詳細が決まっていく。


(2日間で3,000人)


かなり現実的な規模。


それでも業界的には大きい。



「これ」


琉偉がぽつりと言う。


「すごいことですよね」


「仕事だからね」


軽く言う。



でも。


その空気はどこか柔らかかった。



「ありがとう」


琉偉が言う。


「……なにが」


「ちゃんと見せてくれて」


少しだけ目を伏せる。



沈黙。



そして――


巳波の方から、軽くキスをする。


「……ん」


短く、自然に。


でも、確かに強い。



離れたあと。


巳波は少しだけ笑う。


「嬉しすぎ」


「……すみません」


「謝るな」



そのままもう一度。


今度は少し長い。


“嬉しさ”がそのまま形になったようなキス。



夜。


巳波のYouTube生配信。


画面の向こうには何万人もの視聴者。


コメントが流れる。


『新作きた!?』

『表紙美しすぎる』

『握手会!?』



巳波は落ち着いて話す。


「新しい写真集、出ます」


「今回はちょっと特別で」



表紙が映る。


一瞬でコメントが加速する。



「あと」


少しだけ間。


「1冊購入ごとに、握手会参加権があります」



コメント爆発。


『やばい』

『絶対行く』

『神企画』



「日程は2日間で3000人です」


淡々と説明。



画面の向こうの熱量。


一気に跳ね上がる。



その裏で。


琉偉は自室で画面を見ていた。


(……これ)


自分の一言が、ここまで広がった現実。



隣で蒼と彩音も同じ配信を見ている。


「おい」


蒼が呟く。


「また規模えぐくなってるぞ」


「ね」


彩音が小さく笑う。


「ほんとに別世界」



琉偉は画面を見ながら、静かに思う。


(……もう戻れないな)


でも。



その隣には、確かに“繋がっている現実”があった。  



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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