第24章「最初に見る権利」
夜。
家の中は静かだった。
テレビの音もない。
時計の針だけが、ゆっくりと進んでいる。
琉偉の部屋。
机の上には何もない。
ただ、スマホだけが小さく光っていた。
⸻
ドアが軽くノックされる。
「入るよ」
声と同時に、巳波が入ってくる。
髪は少しだけ下ろされていて、仕事の時とは違う柔らかさがあった。
「……どうしたんですか」
琉偉が顔を上げる。
巳波は何も言わず、隣に座る。
⸻
少しの沈黙。
空気がいつもより静かだった。
そして――
巳波の方から、そっと距離を詰める。
「……今日さ」
小さな声。
「返事、ちゃんとしてくれてありがとう」
「……ああいうのは当然です」
「当然じゃないよ」
少しだけ笑う。
⸻
そのまま、自然に。
唇が重なる。
「……ん」
短いキスではなく、少しだけ長い。
でも、強すぎない。
確かめるような距離。
⸻
離れたあと。
巳波は軽く息を整える。
「……落ち着くね」
「……はい」
琉偉も少しだけ視線を落とす。
⸻
沈黙。
でも、その沈黙は心地よかった。
⸻
琉偉は少しだけ言葉を探す。
「……あの」
「ん?」
巳波が振り向く。
⸻
「もし」
一瞬だけ間。
「新しい写真集が出るとき」
巳波が目を細める。
「うん」
⸻
「世の中で一番最初に見せてください」
その言葉が落ちた瞬間。
部屋の空気が少しだけ変わる。
⸻
巳波は一瞬だけ固まる。
そして――
「……なにそれ」
小さく笑う。
「ずるい言い方」
⸻
「ダメですか」
「ダメじゃないけど」
少しだけ顔を近づける。
「独占欲?」
「……まあ」
正直すぎる返事。
⸻
巳波は少しだけ黙る。
そして、ふっと笑う。
「いいよ」
あっさり。
⸻
「本当に?」
「うん」
軽く頷く。
「最初に見せる」
⸻
琉偉は少しだけ目を見開く。
「……いいんですか」
「うん」
「仕事なのに」
「だからこそ」
少しだけ真面目な目になる。
「あなたには最初に見せる」
⸻
その一言が、やけに重かった。
⸻
琉偉は小さく息を吐く。
「……ありがとうございます」
「お礼言うことじゃないでしょ」
軽く笑う。
⸻
もう一度。
今度は短いキス。
「……ん」
⸻
離れたあと、巳波が小さく言う。
「ねえ」
「はい」
⸻
「そういうの、あんまり言いすぎると」
少しだけ意地悪な目。
「こっちも困る」
「……困るんですか」
「うん」
即答。
⸻
沈黙。
でも、空気は柔らかい。
⸻
巳波は立ち上がる。
「じゃあ、寝る」
「……はい」
⸻
ドアの前で一度振り返る。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
⸻
扉が閉まる。
静寂。
⸻
琉偉はベッドに倒れ込む。
(……最初に見せる)
その言葉が、頭から離れない。
ただの約束なのに。
なぜか少しだけ、特別に感じた夜だった。
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