第22章「朝の習慣と、消えない余韻」
朝。
薄い光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
鳥の声と、遠くの生活音。
静かなはずの朝なのに、なぜか心だけが少しだけ落ち着かない。
琉偉は目を開ける。
隣にいる気配。
(……いる)
東雲巳波。
まだ少し眠そうに目を閉じたまま、自然にそこにいる。
⸻
「……おはよう」
小さな声。
巳波がゆっくり目を開ける。
「……ん」
眠気混じりの返事。
そのまま、何も言わずに少しだけ近づいてくる。
⸻
次の瞬間。
軽く、でも当たり前のように――
唇が触れる。
「……おはようのキス」
巳波が小さく言う。
「……はい」
琉偉も自然に返す。
もう驚かない距離。
もう当たり前になりつつある関係。
⸻
「今日も撮影準備あるから」
巳波が布団から起きながら言う。
「……水着ですか?」
「うん」
軽く返事。
「昨日の続きみたいなやつ」
「……そうですか」
少しだけ間が空く。
⸻
「昨日のやつ」
琉偉がぽつりと言う。
巳波が振り返る。
「なに」
⸻
「……綺麗でした」
一瞬止まる。
巳波の動きが固まる。
「……またそれ?」
「でも本当です」
即答。
⸻
「仕事だから」
少しだけ困ったように言う。
でも怒ってはいない。
むしろ、少しだけ照れている。
⸻
「分かってます」
琉偉は続ける。
「でも、ちゃんと見れて良かったです」
⸻
沈黙。
数秒。
そして巳波は小さくため息をつく。
「……ほんと、そういうとこ」
「すみません」
「謝るなって言ってるでしょ」
軽く突く。
⸻
そして――
また近づく。
今度は少し長め。
でも朝なので優しい。
「……ん」
離れたあと、巳波が小さく言う。
「行ってきなさい」
⸻
琉偉は少しだけ笑う。
「行ってきます」
⸻
玄関。
靴を履く前に、もう一度。
自然に引き寄せられるように――
キス。
今度は少しだけ濃い。
でも短い。
⸻
「……ほんと朝から」
巳波が小さく笑う。
「行ってきます」
もう一度言う。
⸻
「行ってらっしゃい」
その言葉は、少しだけ柔らかかった。
⸻
扉が閉まる。
外の空気。
学校へ向かう道。
⸻
(……これ、もう普通じゃないよな)
そう思いながらも。
戻れないことだけは、はっきり分かっていた。
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