第21章「夜の確かめ合い」
部屋の明かりは落ちていた。
カーテンの隙間から、街の灯りだけがうっすら差し込んでいる。
静かだった。
時計の針の音だけが、やけに大きく感じる。
琉偉は天井を見ていた。
(……今日も終わるのか)
学校では、巳波の撮影会の話題で一日が埋まっていた。
誰も知らない。
その中心にいる人が、今この部屋にいることを。
⸻
隣で、小さく布団が動く。
「……琉偉」
低い声。
「はい」
返事をすると、巳波は少しだけ体を起こした。
眼鏡は外れている。
髪はほどけていて、仕事の顔でもない。
家の顔でもない。
その“間の姿”。
⸻
「今日さ」
少しだけ間。
「変な感じだったね」
「……撮影会のことですか」
「うん」
小さく笑う。
「知らない人の中にいるのに、知ってる人の話ばっかりされてて」
「……はい」
「でも」
巳波は視線を落とす。
「悪くはなかった」
⸻
沈黙。
琉偉は少しだけ息を飲む。
「……俺」
言いかけて止まる。
巳波が見る。
「ん?」
⸻
「見てるだけでも」
少しだけ声が震える。
「やっぱり、綺麗でした」
正直すぎる言葉。
巳波は一瞬だけ固まって――
「……またそれ?」
小さく笑う。
「真面目すぎ」
⸻
でも、その目は怒っていない。
むしろ少しだけ柔らかい。
「仕事だって言ってるでしょ」
「……分かってます」
「分かってない顔してる」
軽く突くように言う。
⸻
沈黙が落ちる。
でも、嫌な空気ではない。
むしろ――近い。
⸻
巳波がゆっくりと近づく。
「ね」
「……はい」
「今日さ」
少しだけ声を落とす。
「ちゃんと我慢してたでしょ」
「……まあ」
「えらい」
⸻
その一言が落ちた瞬間。
空気が変わる。
⸻
巳波はそっと手を伸ばし、琉偉の頬に触れる。
「でも」
小さく笑う。
「今はいいよね」
⸻
次の瞬間。
唇が重なる。
静かに。
でも、逃げ道のない距離で。
「……ん」
呼吸が混ざる。
さっきよりも深く、長く。
⸻
離れたあと、少しだけ間。
「……今日のは」
巳波が小さく言う。
「確認」
「……確認?」
「うん」
軽く笑う。
「ちゃんと戻ってきてるかどうか」
⸻
琉偉は少しだけ息を整える。
「……戻ってます」
「知ってる」
即答だった。
⸻
もう一度。
今度は短く、でも確かに。
キス。
⸻
「おやすみ」
「……おやすみなさい」
⸻
布団の中で、距離は近いまま。
でも会話はもうない。
ただ静かな夜。
⸻
外では、誰かが巳波の名前を話している。
画面の中の彼女に熱狂している。
でもこの部屋では違う。
誰にも見せない時間が、確かに積み重なっていた。
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