↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/127

第102章「土曜日の朝――“変わらない日常”と二人だけの穏やかな休日」


土曜日の朝。


平日とは違い、目覚まし時計の音は鳴らなかった。


戸塚駅近くの一軒家には、ゆっくりとした時間が流れている。


カーテンの隙間から差し込む朝日が、寝室を柔らかく照らしていた。


窓の外では、小鳥の鳴き声が聞こえる。


遠くからは電車の走る音も微かに聞こえてきた。


それでも、この家の中だけは静かだった。



琉偉はゆっくりと目を開ける。


時計を見る。


午前八時十五分。


大学がある平日なら、とっくに起きて支度を始めている時間だった。


だが今日は休日。


久しぶりに、時間に追われない朝だった。


隣を見る。


巳波はまだ眠っている。


長い髪が枕に広がり、穏やかな寝息を立てていた。


仕事では常に人前に立ち、多くの人に見られている巳波。


しかし今の彼女は、誰にも見せることのない素顔そのものだった。


琉偉はその姿を静かに見つめる。


そして小さく微笑んだ。


「……よく寝てますね」


昨日の雑談配信も大成功だった。


配信終了後も、二人はしばらくソファで話し込み、気付けば深夜になっていたのだ。


疲れているのだろう。


琉偉は起こさないように、そっとベッドを抜け出した。



リビングへ向かう。


静かな朝。


冷蔵庫を開ける。


中には昨日買った食材が綺麗に並んでいた。


卵。


ベーコン。


食パン。


レタス。


トマト。


牛乳。


琉偉は少し考える。


「朝食、作りますか」


休日くらいは、巳波をゆっくり休ませたい。


そう思った。



キッチンから、調理を始める音が聞こえ始める。


ベーコンを焼く。


フライパンの上で小気味よい音が響く。


卵を割り、スクランブルエッグを作る。


食パンをトースターへ入れる。


その間にサラダも準備する。


料理をしていると、自然と気持ちが落ち着いていった。



十分ほど経った頃。


背後から声が聞こえた。


「……おはよう」


振り返る。


そこには、少し寝ぼけた表情の巳波が立っていた。


部屋着姿のまま、目を擦っている。


「おはようございます」


「何してるの?」


「朝ご飯です」


巳波は少し驚いたように目を瞬かせる。


「え?」


「今日は休日なので」


「巳波さん、昨日遅かったですし」


巳波はしばらく琉偉を見つめていた。


そして、小さく笑う。


「ありがとう」



朝食はリビングで食べることになった。


スクランブルエッグ。


ベーコン。


トースト。


サラダ。


ホットコーヒー。


特別豪華な食事ではない。


それでも、二人にとっては十分すぎる朝食だった。


「いただきます」


「いただきます」



巳波は一口食べる。


「美味しい」


「本当ですか?」


「うん」


「琉偉、料理上手だよね」


「普通です」


「その『普通』が高いんだって」


巳波は笑う。



食事をしながら、自然と昨夜の配信の話になる。


「昨日もコメント凄かったね」


「そうですね」


「配信始めた頃は、こんな風になるなんて思わなかったな」


巳波はコーヒーを飲みながら言った。


「最初は登録者数百人だったし」


「今は二百八十五万人ですからね」


「数字だけ見ると怖いよね」


「でも、巳波さんらしい配信だからだと思います」


「そうかな」


「はい」


巳波は少し照れたように笑った。


「そういうところだよ」


「?」


「なんでもない」



朝食後。


二人はソファに座ってゆっくり過ごしていた。


テレビでは休日の情報番組が流れている。


全国のグルメ特集。


温泉特集。


秋の観光地特集。


「箱根かぁ」


巳波がテレビを見ながら呟く。


「近いですね」


「今度行く?」


「いいですね」


「じゃあ決まり」


あっさり予定が決まる。


二人らしい決め方だった。



その時。


巳波のスマートフォンが鳴った。


画面を見る。


「雷斗さんだ」


通話に出る。


「もしもし」


『おはようございます』


「おはようございます」


『急ぎではないんですが、来月発売の写真集の打ち合わせを来週入れたいんです』


「大丈夫です」


『あと、配信関連の企業案件がまた増えてます』


「増えてるんですか?」


『かなり』


『昨日の雑談配信も同時接続数が過去最高でしたから』


「そうなんですね」


『後ほど資料送ります』


「分かりました」


通話が終わる。



「仕事ですか?」


琉偉が聞く。


「うん」


「写真集の打ち合わせと案件が増えたって」


「忙しくなりそうですね」


巳波は少しだけ考える。


「でも」


「家に帰ってきたら、こうやって普通に過ごせるから頑張れるかな」


そう言って、巳波は琉偉を見る。


「それなら良かったです」


「うん」



昼が近づいてくる。


穏やかな休日。


何か特別なことをするわけではない。


ただ同じ家で、同じ時間を過ごす。


それだけなのに、二人にとっては十分だった。


窓から入る秋の風が、ゆっくりとカーテンを揺らす。


そんな静かな土曜日の朝だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。