第七話 「違法とうもろこし畑」
「おい九条」
朝。
Eクラス農地で、松永が真顔で言った。
「国家権力が来る」
「お前のせいだよ」
数時間前。
監査局から届いた通知。
《Eクラス農地運営監査》
理由。
《農地使用規定違反の疑い》
つまり。
松永のとうもろこし帝国である。
⸻
「いやだって!」
農業班女子が叫ぶ。
「農地半分とうもろこしはさすがに怒られるって!」
「だが夢がある」
「夢で米減らすな!」
Eクラス全員が畑前で揉めていた。
風で揺れる大量のとうもろこし。
もはや圧。
「しかも購買部から醤油大量発注してるのバレてるぞ」
改良班が青ざめる。
「終わった……」
「燻製醤油ルートが……」
「お前ら裏取引みたいに言うな」
すると柴崎が俺を見る。
「九条! 監査局なんとかしろ!」
「無理だ」
「彼女いるだろ!」
「便利屋じゃねぇんだよ」
⸻
その時。
農地ゲートが開いた。
現れたのは。
黒スーツ集団。
「来たぁぁぁ!!」
Eクラスが騒ぐ。
中央に立つのは、黒崎玲奈。
監査局主任。
完全に取り締まる側の顔だった。
「これが問題農地ね」
黒崎はとうもろこし畑を見上げる。
沈黙。
そして一言。
「……やりすぎでは?」
「ですよね!」
全員が叫んだ。
だが松永だけは違った。
静かに前へ出る。
「監査官」
「何?」
「焼きとうもろこし、食いますか?」
空気が止まった。
「松永お前ぇ!?」
「交渉する気か!?」
黒崎は数秒黙る。
そして。
「……一本だけ」
「通った!?」
⸻
数分後。
炭火台設置。
じゅううう……。
香ばしい匂いが広がる。
監査局職員たちの腹が鳴っていた。
Eクラス全員が気づく。
「……いけるぞ」
「押せる」
「勝機ある」
何の勝負だ。
一ノ瀬雪乃も呆れた顔をしていた。
「Eクラスって本当に変だね」
「今さらか」
松永が焼き上げる。
黄金色。
醤油ダレ。
炭火。
完成度が高すぎた。
黒崎が一本受け取る。
「いただきます」
一口。
沈黙。
Eクラス全員が固唾を飲む。
そして。
「……おいしい」
勝った。
なぜかEクラスがガッツポーズした。
「よっしゃあああ!!」
「農業班最強!!」
「焼きとうもろこし革命!!」
「お前ら静かにしろ!」
⸻
だが。
黒崎は仕事を忘れていなかった。
「ただし」
全員硬直。
「無許可農地拡張は規則違反よ」
「ぐっ……!」
松永が膝をつく。
「しかし」
黒崎は続ける。
「学園祭収益性と食料自給率向上への貢献は評価できる」
端末を操作。
《Eクラス農地》
《特別実験区画として暫定認可》
沈黙。
数秒後。
「うおおおおおおおお!!」
Eクラス大爆発。
柴崎が松永を抱き上げる。
「やったぞとうもろこし王!!」
「離せ苦しい!」
改良班が泣いていた。
「燻製醤油が生きた……!」
「そこかよ」
⸻
騒ぎの中。
黒崎が俺へ近づいた。
「九条くん」
「なんです」
「あなた、Eクラス好きね」
「……は?」
「顔に出てる」
そんなつもりはない。
だが。
騒いでる連中を見る。
泥だらけで。
バカで。
くだらなくて。
でも。
少なくとも、ここには“演技”が少ない。
その時。
一ノ瀬が焼きとうもろこしを持ってきた。
「はい」
「なんでお前も普通に馴染んでんだ」
「もう三本目」
「食いすぎだろ」
彼女は笑う。
自然に。
最近、本当に増えた。
そんな空気を壊すように。
突然、校内モニターが点灯した。
《緊急速報》
《恋愛省監察局、来校決定》
空気が止まる。
黒崎の表情が消えた。
「……最悪ね」
モニターには、新たな名前が表示される。
《中央恋愛省特別監察官》
《白鷺優斗》
そして。
《目的:神奈川県立統合学園の適正監査》
Eクラスの笑い声が、止まった。




