第六話 「摘発」
学園祭準備期間。
神奈川県立統合学園は、一年で最も“恋愛指数”が動く季節を迎えていた。
告白イベント。
ペア企画。
恋愛適性ランキング特別加算。
学園祭でカップル成立すれば、Lスコアは大きく上昇する。
つまり――。
ここが、一番“稼げる”。
⸻
「はい、潜入任務説明」
旧校舎地下。
学園恋愛監査局臨時室。
黒崎玲奈がモニターを操作する。
画面には大量の送金記録。
「現在A組学園祭実行委員会内部で、“恋愛売買”が確認されている」
黒崎が淡々と言う。
「告白代行」
「偽装カップル契約」
「恋愛スコア加算工作」
完全に終わってる。
「そんな露骨なことしてバレないのか」
「普通はね」
黒崎は俺を見る。
「でも君は違う」
嫌な言い方だ。
「感情偽装判定。あなたは“恋愛演技”を識別できる」
「だから潜入しろと」
「そういうこと」
一ノ瀬が隣で小さく手を挙げた。
「私も同行する」
「当然よ」
「当然なのかよ」
黒崎は少し笑った。
「あなたたち、“公認カップル”でしょう?」
便利に使われすぎである。
⸻
午後。
A組学園祭実行室。
空気が違う。
高級ホテルのラウンジみたいだった。
資料。
大型モニター。
スポンサー一覧。
Eクラスの文化祭準備が“屋台”なら、こっちは“企業イベント”。
「一ノ瀬さん!」
「待ってました!」
一ノ瀬が入った瞬間、空気が華やぐ。
人気アイドルか。
すると視線が俺へ集まる。
「……なんで九条も?」
「マジで付き合ってんの?」
「Eクラスだろ?」
うるさい。
その時。
「よう、九条」
相沢が現れた。
生徒会執行部。
A組中心人物。
笑っている。
だが。
分かる。
こいつ、今かなり警戒してる。
「学園祭実行委員へようこそ」
「どうも」
「恋人同伴か?」
「制度上そうらしい」
周囲が笑う。
相沢も笑う。
だが感情が揺れてない。
作ってる。
演技だ。
⸻
数時間後。
俺は違和感を感じていた。
女子生徒の一人。
妙に不自然だ。
男子へ近づく距離。
声。
笑い方。
全部が“作業”みたいだった。
「……あいつか」
俺が呟くと、一ノ瀬が小声で聞く。
「見えた?」
「ああ」
「どんな感じ?」
「感情が空っぽ」
営業スマイル。
営業会話。
営業恋愛。
人間じゃなくて接客AIみたいだ。
その時。
女子生徒が男子へ小声で言った。
「追加料金で、学園祭最終日まで恋人継続も可能ですよ?」
聞こえた。
俺にも。
一ノ瀬にも。
空気が冷える。
男子は端末を操作した。
送金。
女子の端末へ入金通知。
証拠成立。
「……黒だな」
一ノ瀬が静かに言う。
次の瞬間。
部屋の扉が開いた。
「学園恋愛監査局です」
黒スーツ集団。
監査局査察班。
空気が凍る。
「なっ――!?」
「監査局!?」
女子生徒の顔色が変わった。
黒崎玲奈が入ってくる。
「恋愛指数不正操作及び偽装恋愛契約違反」
淡々と告げる。
「関係者全員、端末提出」
悲鳴。
怒号。
逃げようとする男子。
だが出口は封鎖済み。
「くそっ……!」
女子生徒が震える。
「違うんです……! 私はただ、生き残りたくて……!」
その言葉で、部屋が静まった。
誰も笑わない。
この学園では。
恋愛できなければ終わる。
だから皆、必死だった。
金を払ってでも。
演技してでも。
生き残ろうとしている。
それが、この国だ。
⸻
摘発後。
夕方の校舎廊下。
一ノ瀬がぽつりと言った。
「……ねえ」
「なんだ」
「もしLスコアがなかったら」
彼女は窓の外を見る。
「みんな、普通に恋できたのかな」
風が吹く。
俺は少し考えてから言った。
「さあな」
「冷たい」
「でも今よりはマシだろ」
一ノ瀬は少し笑った。
自然な笑いだった。
最近、少しずつ増えている。
その時。
俺の端末が震えた。
《監査局通知》
《次回監査対象:Eクラス》
「……は?」
一ノ瀬が画面を見る。
そして珍しく、本気で嫌そうな顔をした。
「終わったね」
「何が」
「松永くんの無許可とうもろこし農地」




