第五話 「焼きとうもろこしの王」
Eクラスには、変人しかいない。
その中でも頂点クラスの変人がいる。
農業班――松永大地。
「見ろ九条」
朝六時。
俺は畑の前で呆然としていた。
「……お前、マジでやったのか」
「ああ」
松永は誇らしげに頷く。
Eクラス専用農地。
その半分が。
とうもろこし畑になっていた。
「やりすぎだろ!!」
地平線みたいに広がるとうもろこし。
風で揺れている。
壮観だった。
いや、怖い。
「米は!?」
「一部残してる」
「野菜は!?」
「端にある」
「なんで全部とうもろこしにした!」
すると松永は静かに言った。
「学園祭だ」
全員が黙る。
「今年のEクラスは――焼きとうもろこし屋台で天下を取る」
真顔だった。
こいつ本気だ。
⸻
Eクラス食堂。
朝食中。
「いやいやいや!」
狩猟班の柴崎が机を叩く。
「農地の半分とうもろこしってバカだろ!」
「利益率を考えろ」
松永は冷静だった。
「焼きとうもろこしは匂いが強い。人を引き寄せる」
「なんの分析だよ」
「さらに原価率が低い」
「経営学始まった」
改良班も参加する。
「醤油ダレ研究してる」
「三種類作ったぞ」
「燻製醤油もある」
「本気すぎるだろお前ら」
すると漁業班女子が言う。
「A組は高級スイーツ店やるらしい」
沈黙。
松永が笑った。
「勝ったな」
「なにがだよ」
「匂いで潰せる」
戦争か?
⸻
昼休み。
俺は畑で松永と一緒に作業していた。
とうもろこしの背丈は高い。
「……なんでそんなに焼きとうもろこしにこだわる」
松永は少し黙った。
そして言う。
「子供の頃、祭りで食ったんだ」
「……」
「うまかった」
「理由弱いな」
「だが人生変わった」
松永はとうもろこしを見上げる。
「みんな笑ってた」
風が吹く。
「この学園、笑って飯食うやつ少ないだろ」
少しだけ。
本当に少しだけ。
こいつが格好良く見えた。
⸻
放課後。
畑に現れたのは、一ノ瀬雪乃だった。
「……すごい」
彼女はとうもろこし畑を見上げる。
「もう農場じゃん」
「松永帝国だ」
「いい響きだな」
本人が満足そうだった。
すると一ノ瀬は一本手に取る。
「これ全部、学園祭用?」
「ああ」
松永は腕を組む。
「Eクラスは恋愛では負けてる」
「……」
「だが、飯では負けん」
なぜか空気が熱い。
農業なのに。
「今年の学園祭、A組を食い潰す」
「物理的に言うな」
すると改良班が走ってきた。
「タレ完成したぞー!!」
「持ってこい!」
即席炭火台が準備される。
数分後。
じゅうううう……。
炭火の音。
醤油の香り。
香ばしい匂いが畑へ広がった。
一ノ瀬が目を丸くする。
「……すご」
「これがEクラスだ」
「なんで恋愛より食文化発展してるの?」
「生存に必要だからな」
焼き上がった一本を、一ノ瀬へ渡す。
彼女は恐る恐るかじった。
その瞬間。
「……おいしい」
まただ。
また、一ノ瀬雪乃が自然に笑った。
演技じゃない。
ただ“おいしい”と思った顔。
Eクラス全員が静かになる。
すると松永が真顔で言った。
「よし」
「なにが」
「学園祭優勝いける」
「基準そこなのかよ」
⸻
その日の夜。
学園SNSで、ある写真が拡散されていた。
《学園トップ美少女、一緒に焼きとうもろこしを食べる》
写っていたのは。
Eクラス畑で笑う、一ノ瀬雪乃。
そしてその隣には――俺。
コメント欄は炎上していた。
『なんでEクラスなんかと』
『一ノ瀬さんを返せ』
『低スコアのくせに』
端末を閉じる。
面倒だ。
だが。
その時、通知が届く。
《監査局緊急通知》
《恋愛売買組織の摘発を開始します》
そして最後に、一文。
《潜入先:A組学園祭実行委員会》
嫌な予感しかしなかった。




