第四十八話 「最後の恋愛監査」
神奈川県立統合学園。
その日。
校内全モニターが静かに点灯した。
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《特別恋愛監査実施》
ざわめき。
だが。
今回は少し空気が違った。
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「……最後か」
俺が小さく呟く。
一ノ瀬雪乃が隣で静かに頷いた。
「うん」
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恋愛監査。
この学校を縛ってきた制度。
誰が本気で、
誰が演技で、
誰が“正しい恋愛”をしているか。
数字と評価で管理してきた制度。
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でも今。
その制度自体が揺らいでいる。
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旧校舎。
Eクラス食堂。
今日は珍しく静かだった。
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「最後の監査って、何やるんだ?」
柴崎が聞く。
黒崎玲奈が静かに資料を置いた。
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《全国恋愛制度最終検証》
嫌な正式名称。
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「内容はシンプルよ」
黒崎が言う。
「“偽装恋人”を見抜けるか」
静かな空気。
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「つまり」
朝霧が小さく言う。
「九条くんの能力テスト?」
「多分そうだな」
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最初。
俺は。
“嘘の恋愛感情”だけを見抜いていた。
でも今は違う。
本物の感情も、
少し分かるようになっていた。
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その時。
講堂集合通知。
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数十分後。
第一講堂。
全校生徒集合。
A組。
D組。
Eクラス。
全員いる。
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壇上には。
白鷺優斗。
静かな空気。
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「本日」
白鷺が言う。
「最後の恋愛監査を行います」
モニター点灯。
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《恋愛感情最終判定》
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「従来制度では」
白鷺は続ける。
「恋愛を“評価”してきました」
Lスコア。
適性。
人気。
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「ですがEクラスは」
映像切り替え。
畑。
笑顔。
共同生活。
「その理論を変えた」
講堂が静かになる。
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「そこで本日は」
白鷺が俺を見る。
「九条蓮くん」
嫌な予感。
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「あなたに、最後の監査をお願いします」
沈黙。
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「この中から」
モニター表示。
《偽装恋人》
「一組だけ存在します」
全校ざわつく。
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「マジかよ……」
「まだいたのか……」
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俺は静かに壇上へ上がる。
講堂を見る。
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緊張してるやつ。
照れてるやつ。
本気で好きなやつ。
色々見える。
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でも。
一組だけ。
違和感があった。
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「……あの二人だな」
俺が指差す。
一般クラスカップル。
空気が止まる。
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「理由は?」
白鷺が聞く。
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「距離感が不自然」
静かな声。
「嫌われない会話ばっかりしてる」
「失敗を怖がってる」
そして。
「“相手”じゃなく、“正しい恋愛”を見てる」
講堂が静まり返る。
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数秒後。
そのカップル男子が苦笑した。
「……すごいな」
静かな声。
「その通りです」
ざわめき。
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「俺たち、Lスコア下げたくなくて付き合ってました」
女子も小さく頷く。
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昔なら。
それが“正しい恋愛”だった。
でも今は違う。
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その時。
一ノ瀬が静かに前へ出る。
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「恋愛って」
講堂を見る。
「失敗してもいいと思う」
静かな声。
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「怖くてもいいし」
「不器用でもいいし」
「ちゃんと好きになれなくてもいい」
優しい声。
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「でも」
少し笑う。
「“本音”だけは隠さなくていいと思う」
講堂が静まる。
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その瞬間。
《感情共鳴指数》
《全校同期状態》
監視モニターが光る。
だが。
今日は誰もツッコまなかった。
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白鷺優斗は静かに笑う。
「……これにて」
小さな声。
「最後の恋愛監査を終了します」
その言葉は。
ひとつの時代の終わりだった。




