第四十四話 「恋愛共同体」
神奈川県立統合学園。
最近の問題。
「クラスの境界が消え始めた」
教師陣が頭を抱えていた。
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昼休み。
旧校舎。
Eクラス農地。
人、多すぎ。
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D組。
一般クラス。
B組。
C組。
みんな普通にいる。
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「ここ本当にEクラスか?」
柴崎が呟く。
「テーマパーク化してる」
「焼きとうもろこし目当てだろ」
松永は真顔だった。
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一方。
D組生徒たちは。
完全に馴染んでいた。
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「魚網そっち持って!」
「了解!」
「その苗ここ植えるんだよ」
「分かった!」
自然な会話。
自然な笑顔。
そして。
自然に距離が近い。
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「……増えてるな」
俺が呟く。
一ノ瀬雪乃が苦笑する。
「うん」
「カップル候補」
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実際。
最近のD組。
恋愛感染が止まらなかった。
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農業班男子とD組女子。
漁業班女子とD組男子。
改良班男子とD組女子。
共同作業を通じて。
どんどん関係が近づいている。
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その時。
旧校舎前で騒ぎ。
「えっ、マジ!?」
見ると。
D組男子・橘悠真。
顔真っ赤。
隣にはD組女子・三枝心春。
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「……俺」
完全に緊張している。
「三枝と話してると落ち着く」
Eクラス静止。
「始まったぁぁぁ!!」
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「だから騒ぐな!!」
橘が叫ぶ。
だが。
三枝も少し笑っていた。
「……私も」
沈黙。
数秒後。
「また感染したぁぁぁ!!」
旧校舎大爆発。
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教師が即座に反応。
「よぉぉぉし!!」
黒板設置。
《同室届 D組対応開始》
「仕事早ぇぇぇぇ!!」
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「まだ付き合っただけだぞ!?」
橘が叫ぶ。
教師、笑顔。
「時間の問題だ!」
「圧が強ぇ!!」
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一方。
Eクラス既存組。
完全に慣れていた。
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「最近、恋愛成立しても驚かなくなったな」
朝霧が言う。
「毎週増えてるし」
瀬名も頷く。
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すると。
藤堂が真顔で言った。
「Eクラス、もう共同体では?」
静寂。
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「……共同体?」
俺が聞く。
「共同生活」
「共同作業」
「共同恋愛」
指折り数える。
「もはや村」
「村言うな」
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だが。
誰も少し否定しづらかった。
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実際。
最近の旧校舎は。
恋愛競争の場所じゃない。
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一緒に働いて。
一緒に食べて。
一緒に笑って。
その中で。
自然に感情が育っている。
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一ノ瀬が小さく笑う。
「……家族みたいだね」
その言葉に。
EクラスもD組も少し静かになる。
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最初。
みんな恋愛が怖かった。
失敗が怖かった。
評価が怖かった。
でも今は違う。
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不器用でもいい。
ちゃんと向き合えばいい。
そんな空気が。
この学校に広がっていた。
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その頃。
中央恋愛省。
《統合学園現状報告》
研究員たちがざわついていた。
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「クラス間恋愛障壁消失!」
「共同生活型恋愛形成が拡大!」
「生徒間ストレス値大幅減少!」
完全に。
旧恋愛制度と逆方向だった。
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白鷺優斗は静かに言う。
「……興味深いですね」
窓の外を見る。
「彼らは、“競争”ではなく、“居場所”から恋愛を作っている」
それは。
恋愛省が最も理解できなかった概念だった。
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一方。
夕方。
農地。
D組生徒も混ざって騒いでいる。
焼きとうもろこしの匂い。
笑い声。
夕焼け。
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一ノ瀬が自然に俺の隣へ座る。
「……ねえ」
「なんだ」
「この学校、変わったね」
静かな声。
俺は少し笑う。
「だな」
その瞬間。
《感情共鳴指数》
《全校安定同期状態》
監視ドローン反応。
「だから空気読めぇぇぇぇ!!」
もはや校歌みたいになっていた。




