第四十三話 「D組」
D組ができてから、一か月。
神奈川県立統合学園は。
完全に以前と別の学校になっていた。
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昼休み。
D組教室。
以前は静かだった。
みんな端末ばかり見て、
Lスコアを気にして、
“正解の会話”を探していた。
でも今は違う。
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「今日、農地行く?」
「行く!」
「魚スープまだあるかな」
「松永が大量に作ってた」
普通の雑談。
笑い声。
自然な空気。
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教室後方では。
D組男子と女子が、一緒に焼きとうもろこしを食べていた。
「……うま」
「だろ?」
その距離感は。
もう以前のD組じゃなかった。
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一方。
Eクラス。
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「完全に感染したな」
柴崎が真顔だった。
「パンデミックだろこれ」
「恋愛を感染症みたいに言うな」
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だが。
誰も否定できない。
D組は確実に変わっていた。
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その時。
教師が黒板を叩く。
「よぉぉぉし!!」
嫌な予感。
「今日は!!」
《D組観察会》
「最低だぁぁぁぁ!!」
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「Eクラスは!」
教師が叫ぶ。
「D組がどれだけ自然恋愛適応したか確認しろ!!」
「動物園か!!」
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だが。
Eクラス連中。
妙に真剣だった。
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「確かに最初より会話自然」
「距離感柔らかい」
「笑う回数増えてる」
完全に分析班。
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すると。
D組女子が少し困った顔をする。
「……でもまだ怖いよ」
静かな空気。
「“好き”って言うの」
小さな声。
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Eクラスが少し黙る。
それは。
みんな最初に通った感情だった。
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一ノ瀬雪乃が優しく笑う。
「大丈夫」
「……え?」
「Eクラスも最初そうだったから」
静かな声。
「失敗したらどうしよう、とか」
「嫌われたらどうしよう、とか」
D組生徒たちが静かに聞いている。
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「でもね」
一ノ瀬は少し照れながら笑う。
「ちゃんと向き合ってくれる人って、意外といるよ」
その瞬間。
D組男子が真っ赤になる。
隣の女子も赤い。
Eクラス全員、察した。
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「来たぁぁぁぁ!!」
「まだ何も言ってない!!」
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すると。
柴崎が腕を組む。
「よし、分かった」
「何が」
「まず共同作業だ」
「またそれか!!」
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松永も真顔で頷く。
「畑は全てを解決する」
「農業万能論やめろ!!」
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だが。
D組女子は少し笑っていた。
「……でも」
「ん?」
「みんなで何かやるの、楽しいかも」
その瞬間。
《感情共鳴指数》
《D組安定率上昇》
監視ドローン即反応。
「仕事早ぇぇぇ!!」
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その頃。
中央恋愛省。
《D組変化レポート》
研究員たちがざわついていた。
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「D組でも自然恋愛発生率増加!」
「Lスコア依存率低下!」
「恋愛不安指数改善!」
完全に。
Eクラス現象が再現されていた。
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白鷺優斗は静かに資料を見る。
「……Eクラスは特殊ではなかった」
小さく呟く。
「人間は、本来こうだったのかもしれません」
管理される前は。
もっと自然に、
もっと不器用に。
誰かを好きになっていた。
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一方。
夕方。
Eクラス農地。
D組生徒たちも混ざっている。
笑い声。
焼きとうもろこし。
魚。
燻製。
そして。
自然に隣へ座る人たち。
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俺はその光景を見る。
「……ほんと変わったな」
一ノ瀬が隣で頷く。
「うん」
そして。
彼女は自然に俺の肩へ寄りかかった。
もう。
演技じゃない。
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その瞬間。
《感情共鳴指数》
《全校過去最高更新》
監視ドローンが光る。
「だから空気読めぇぇぇぇ!!」
EクラスとD組の叫びが、夕焼け空へ響いた。




