第四十二話 「D組交流実習」
新学期開始から一か月。
神奈川県立統合学園は、ますますおかしくなっていた。
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《Eクラス方式》
全国導入。
《感情共鳴教育》
拡大中。
そして。
D組。
完全にEクラスへ染まり始めていた。
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「おい九条」
柴崎が畑を耕しながら言う。
「最近D組、普通に農地来すぎじゃね?」
見る。
D組生徒たち。
普通に畑仕事している。
しかも。
楽しそう。
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「最初あんな暗かったのにな」
朝霧が小さく言う。
確かに。
転校当初のD組は。
みんな疲れていた。
恋愛へ怯えていた。
常に評価を気にしていた。
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でも今は。
「これ植えればいい?」
「その辺で大丈夫」
普通に会話している。
笑っている。
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その時。
校内モニター点灯。
《D組交流実習開始》
嫌な予感。
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教師が勢いよく現れた。
「よぉぉぉし!!」
朝からうるさい。
「今日から!!」
黒板を叩く。
《D組・Eクラス共同生活交流》
沈黙。
「……は?」
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「D組にも!」
教師が叫ぶ。
「Eクラス方式を本格導入する!!」
「また雑に始まったぁぁぁ!!」
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D組側も困惑していた。
「共同生活って……」
「マジで?」
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すると。
教師が紙を配り始める。
《交流ペア表》
嫌な予感しかしない。
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「農業班とD組!」
「漁業班とD組!」
「改良班とD組!」
完全に組み合わせ実習だった。
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「なお!!」
教師が満面の笑み。
「感情共鳴率高かったら同室候補な!!」
数秒停止。
「早ぇぇぇぇぇ!!」
D組大混乱。
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一方。
Eクラス。
慣れていた。
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「まあ最初みんなそうなるよな」
柴崎が遠い目で言う。
「俺らも最初そうだったし」
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その時。
D組女子が、おずおずと聞いてくる。
「……ほんとに、恋愛って自然にできるの?」
静かな空気。
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一ノ瀬雪乃が優しく笑った。
「最初は私も信じてなかったよ」
小さな声。
「でもEクラス来てから、“好きにならなきゃ”って考えなくなった」
D組生徒たちが静かに聞いている。
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「一緒にいて」
「話して」
「笑って」
一ノ瀬は少し照れながら笑う。
「気づいたら、大切になってた」
監視ドローン即反応。
《感情共鳴指数上昇》
「空気読めぇぇぇ!!」
もはや恒例だった。
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一方。
D組男子と農業班女子。
すでに空気が柔らかい。
「土触ったことないの?」
「ない……」
「じゃあ教える」
自然だった。
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漁業班側でも。
「魚苦手?」
「ちょっと」
「慣れると面白いよ」
朝霧が笑っている。
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そして。
改良班。
藤堂がD組男子へ燻製器を説明していた。
「これ温度管理重要」
「なんか楽しそうだな……」
「実際楽しい」
Eクラス全体が。
もう“恋愛教育施設”みたいになっていた。
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その頃。
中央恋愛省。
《D組感情安定率上昇》
《恋愛不安指数低下》
研究員たちがざわつく。
「再現性があります!」
「Eクラス現象、特殊例ではありません!」
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白鷺優斗は静かに窓の外を見る。
「……つまり」
小さく呟く。
「人は、本来もっと自然に恋愛できる存在だった」
恋愛省が作った制度より。
ずっと前から。
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一方。
夕方。
農地。
D組生徒たちも混ざって笑っている。
焼きとうもろこし。
魚スープ。
燻製。
そして。
少しずつ増えていく会話。
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「……なんか」
D組女子が小さく言う。
「ここ、落ち着くね」
その瞬間。
Eクラス全員。
同時に察した。
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「感染したぁぁぁぁ!!」
夕焼け空へ、いつもの叫びが響いた。




