第四十話 「慢性少子化」
神奈川県立統合学園。
昼休み。
校内モニターが突然点灯した。
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《新クラス編成通知》
ざわめき。
《D組 新設》
全校が少し騒つく。
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「……D組?」
俺が呟く。
一ノ瀬雪乃も少し驚いていた。
「今まで空いてたよね」
「A、B、C、Eしかなかったからな」
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その時。
柴崎が真顔で言った。
「この少子化の日本でマンモス校すぎるだろ」
静かな空気。
確かにそうだった。
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2042年日本。
慢性少子化。
地方学校は次々閉鎖。
一学年一クラスすら維持できない学校も多い。
なのに。
神奈川県立統合学園は。
A〜E組まで存在する。
異常だった。
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「この国で五クラスある高校とか奇跡だぞ」
農業班女子が言う。
「しかも転校生でD組追加って」
完全に国家重点校だった。
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その時。
モニターが続報を流す。
《D組編成理由》
《全国恋愛教育モデル校集中転校制度》
沈黙。
「また恋愛省かよ」
Eクラス全員が同時に呟いた。
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つまり。
全国から。
“恋愛教育適応者”や、
“問題生徒”が。
統合学園へ集められていた。
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「自由恋愛を統制するほど、この国病んでるよな」
柴崎がぽつりと言う。
珍しく真面目だった。
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静かな空気。
誰も否定できなかった。
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昔。
恋愛は個人の自由だった。
でも今は違う。
スコア化され。
評価され。
監視されている。
恋愛すら、
国家管理対象。
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「少子化対策のはずだったんだよな」
朝霧が小さく言う。
「なのに、みんな恋愛怖がってた」
その言葉に。
Eクラスが少し静かになる。
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一ノ瀬も窓の外を見ていた。
「A組もそうだった」
小さな声。
「失敗したら減点」
「嫌われたら終わり」
「常に評価」
静かな空気。
「だから、“好き”より“正解”を探してた」
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その時。
旧校舎入口が騒がしくなる。
新設D組生徒たちだった。
転校生集団。
不安そうな顔。
疲れた顔。
中には。
Lスコア端末を握りしめている生徒もいた。
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「……なんか」
柴崎が小さく言う。
「昔の俺らみたいだな」
誰も否定しなかった。
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すると。
教師が突然叫ぶ。
「よぉぉぉし!!」
嫌な予感。
「D組歓迎!!」
黒板を叩く。
《焼きとうもろこし交流会》
「なんでだよ!!」
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松永だけ真顔だった。
「交流には炭火が必要」
「宗教か?」
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だが。
D組生徒たちは少し戸惑いながらも。
焼きとうもろこしを食べ。
魚スープを飲み。
Eクラスの騒ぎを見て。
少しだけ笑っていた。
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「……変なクラス」
D組女子が呟く。
すると。
一ノ瀬が優しく笑う。
「うん」
「でも、ちょっと楽だよ」
その言葉に。
D組生徒たちの表情が少し緩んだ。
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その頃。
中央恋愛省。
白鷺優斗は、新資料を見ていた。
《全国出生率》
《微増傾向》
研究員が震えた声で言う。
「Eクラス方式導入地域で、恋愛不安指数が低下しています」
静かな空気。
白鷺は小さく呟く。
「……皮肉ですね」
「恋愛を管理しすぎた結果、人々は恋愛を恐れた」
だが。
Eクラスは違った。
不器用でも。
失敗しても。
笑われても。
ちゃんと感情を育てていた。
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一方。
旧校舎。
夕暮れ。
D組生徒も混ざって騒いでいる。
焼きとうもろこし。
魚。
畑。
そして。
笑い声。
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一ノ瀬がぽつりと言う。
「……この学校」
「なんだ」
「最初は、“恋愛を管理する場所”だったのに」
夕陽を見る。
「今は、“恋愛を覚える場所”になってる」
静かな声。
その瞬間。
《感情共鳴指数》
《全校平均過去最高更新》
監視モニターが光る。
「だから空気読めぇぇぇ!!」
EクラスとD組のツッコミが、校庭へ響いた。




