第三十六話 「同室届」
Eクラス旧寮。
朝。
空気が妙に騒がしかった。
⸻
「……なんだこれ」
食堂入口。
俺は掲示板を見て固まった。
《同室届申請書》
大量。
しかも。
《感情共鳴実験クラス専用》
嫌な正式名称まで入っていた。
⸻
「来たか……」
柴崎が遠い目をする。
「ついに制度化された……」
「何が」
「恋愛同棲社会」
「言い方終わってるぞ」
⸻
その時。
Eクラス担当教師が勢いよく入ってきた。
「お前らぁ!!」
朝からうるさい。
⸻
「独身組ぃ!!」
黒板を叩く。
「カップル成立したら!!」
さらに叩く。
「同室届どんどん出せよ!!」
沈黙。
「一緒にしてやるからな!!」
強い圧だった。
⸻
Eクラス全員停止。
数秒後。
「雑ぅぅぅぅぅ!!」
大爆発。
⸻
「いや待て!!」
農業班男子が立ち上がる。
「付き合ったら即同室なの!?」
「感情安定率が高い!」
「研究結果だけで人生決めるな!!」
⸻
教師は止まらない。
「現在Eクラス共同生活成功率は全国最高!!」
なぜ誇らしげなんだ。
「どんどん恋愛しろ!!」
「圧が怖ぇよ!!」
⸻
一方。
既存カップル組。
完全に他人事。
⸻
「朝霧、今日魚どうだった?」
「大漁」
柴崎と朝霧。
もう自然すぎる。
⸻
「瀬名、水やり終わった」
「ありがと」
松永と瀬名。
夫婦農業。
⸻
「藤堂、その部品取って」
「ああ」
獅子原が普通に藤堂の肩へ寄りかかる。
生活感が強い。
⸻
教師が満足そうに頷く。
「ほら見ろ!!」
「参考例みたいに言うな!!」
⸻
その時。
食堂隅。
新カップル候補たちがざわつき始める。
「え、もし付き合ったら同室?」
「それはハードル高くない?」
だが。
恋愛感染済みEクラス。
空気が変わるのは早かった。
⸻
漁業班男子・高瀬隼人。
農業班女子・小清水結衣。
二人は最近ずっと一緒にいた。
「高瀬って朝早いよね」
「漁業班だからな」
「私も最近手伝うの楽しい」
距離が近い。
Eクラス全員察する。
⸻
「行けぇぇぇ!!」
「まだ何も言ってねぇ!!」
高瀬が真っ赤になる。
小清水も照れていた。
⸻
すると。
教師がすかさず同室届を差し出す。
「はい準備しとけ」
「早ぇぇぇぇ!!」
圧が強い。
⸻
一方。
俺と一ノ瀬。
「……このクラス終わってる」
「でも楽しそう」
一ノ瀬が笑う。
本当に自然に。
⸻
すると。
教師がこっちを向いた。
「九条ぉ!!」
「嫌な予感」
「お前ら、正式同棲継続届もあるぞ!!」
「なんだその書類!!」
監視ドローンまで反応。
《同室安定率:極めて良好》
「余計な分析するなぁぁぁ!!」
⸻
その頃。
中央恋愛省。
研究室。
《Eクラス同室制度》
《交際継続率:98%》
研究員たちがざわついていた。
「高すぎる……」
「従来恋愛教育より安定している……」
白鷺優斗が静かに言う。
「彼らは、“恋愛を競争”ではなく、“生活”として扱っている」
それは。
恋愛省の常識を、根本から壊す理論だった。
⸻
一方。
Eクラス食堂。
教師が最後に叫ぶ。
「いいかお前ら!!」
黒板を叩く。
「恋愛したら即提出!!」
《同室届》
「青春を加速させろ!!」
完全に勢いだけだった。
⸻
その瞬間。
食堂奥から声。
「……じゃあ」
全員振り向く。
高瀬隼人。
真っ赤な顔。
「小清水と……出してみる」
沈黙。
次の瞬間。
「早ぇぇぇぇぇぇ!!」
Eクラスが崩壊した。




