第三十五話 「趣味が同じ」
Eクラス旧寮。
共同生活制度開始から二週間。
最近、恋愛省が新しい研究を始めていた。
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《恋愛継続要因調査》
テーマ。
「趣味共有による感情安定性」
「また変な研究始めたな……」
俺が呟くと、黒崎玲奈が疲れた顔で頷いた。
「恋愛省、今Eクラスしか見てないから」
「国家の研究対象が偏りすぎだろ」
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だが。
実際、Eクラスでは変化が出ていた。
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農地。
「松永くん、こっち植える?」
「ああ」
松永と瀬名。
二人は完全に“農業趣味共有カップル”だった。
会話内容。
ほぼ畑。
「この土、水持ちいい」
「炭混ぜたからな」
高校生とは思えない。
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一方。
柴崎と朝霧。
「今日、川行く?」
「行く!」
こっちはアウトドア夫婦。
狩猟。
漁業。
共同作業。
相性が妙に良かった。
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さらに。
藤堂と獅子原。
「この燻製器改造したい」
「じゃあ狩猟用肉もっと取ってくる」
趣味一致しすぎていた。
改良班×狩猟班。
完全に生産ライン。
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「……なるほど」
白鷺優斗が資料を見ながら呟く。
《趣味共有率》
《交際継続率 大幅向上》
「Eクラスは、“共同作業”から感情形成している」
従来恋愛理論とは真逆だった。
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一方。
Eクラス食堂。
「おい九条」
柴崎がニヤニヤしていた。
「お前と一ノ瀬さんって、趣味なんだ?」
「趣味?」
「共通点だよ」
言われて少し考える。
俺と一ノ瀬。
最初は本当に正反対だった。
A組トップとEクラス底辺。
だが。
「……最近、一緒に畑見るの好きかも」
ぽつりと呟く。
Eクラス静止。
「え?」
一ノ瀬も少し目を丸くする。
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「あと」
俺は少し考える。
「Eクラス連中見てると飽きない」
「趣味:Eクラス観察」
「なんだそれ」
一ノ瀬が吹き出した。
本当に楽しそうに。
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「私は……」
一ノ瀬が少し考える。
「料理、好きになったかも」
全員見る。
「え?」
「前までやったことなかったけど」
少し笑う。
「Eクラス来てから、みんなで作るの楽しい」
静かな声。
演技じゃない。
本音だった。
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すると。
監視ドローン即反応。
《共通趣味形成確認》
「反応早ぇぇ!!」
Eクラス総ツッコミ。
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その時。
食堂奥で騒ぎ。
「うおおおお!!」
「またか」
見ると。
真壁と水瀬が魚図鑑を一緒に見ていた。
「この魚、今度捕まえたい」
「じゃあ次一緒に行こう」
自然。
あまりにも自然。
「夫婦の休日会話なんよ」
農業班女子が呟く。
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さらに。
農業班女子と漁業班男子。
狩猟班女子と改良班男子。
新カップル候補がどんどん増えていた。
理由。
趣味が合うから。
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「……恋愛って」
一ノ瀬が静かに言う。
「“好きになる努力”じゃなくて」
窓の外を見る。
「一緒に楽しいこと増えていく感じなのかも」
その言葉に。
Eクラスが少し静かになる。
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最初。
誰も恋愛なんて知らなかった。
でも今は。
同じ畑を見て。
同じ魚を捕って。
同じ飯を食って。
その時間の中で。
自然に誰かを好きになっている。
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その時。
校内モニター点灯。
《中央恋愛省 新研究発表》
嫌な予感。
《恋愛教育方針変更》
《“共通趣味形成教育”正式導入》
沈黙。
「……は?」
柴崎が固まる。
さらに。
《モデルケース》
《Eクラス》
「また俺らかよぉぉぉぉ!!」
旧校舎へ叫び声が響いた。




