第三十四話 「恋愛省の誤算」
中央恋愛省。
特別会議室。
空気は最悪だった。
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《Eクラス婚姻希望率》
《全国平均比 483%》
「高すぎます!!」
研究員が叫ぶ。
「まだ高校生ですよ!?」
別研究員も頭を抱える。
「恋愛離脱率ゼロ!」
「精神安定率上昇!」
「共同生活継続率異常値!」
もはや研究報告ではなく悲鳴だった。
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一方。
白鷺優斗は静かだった。
モニターを見つめている。
そこには。
Eクラスの日常。
畑。
魚干し。
炭火。
笑い声。
そして。
自然に寄り添うカップルたち。
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「……誤算ですね」
白鷺が呟く。
「従来制度では、“競争”が恋愛を促進すると考えられていた」
だが。
Eクラスは逆だった。
共同生活。
協力。
自給自足。
その中で。
自然に感情が育っている。
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「このままでは危険です!」
幹部が声を荒げる。
「全国の恋愛教育制度が崩壊する!」
「A組型エリート教育の権威も低下しています!」
実際。
全国で変化が起きていた。
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《Eクラス方式導入校》
《自然恋愛発生率増加》
《恋愛競争ストレス低下》
《交際継続率向上》
結果が良すぎた。
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白鷺は静かに笑った。
「ですが」
窓の外を見る。
「結果が出ている以上、否定はできません」
恋愛省そのものが、揺らいでいた。
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一方。
Eクラス。
そんな国家危機を知らず。
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「柴崎ぃぃぃ!!」
「なんだ!?」
「朝霧さんとお揃いのマグカップ使ってる!!」
「だ、だって同室だし!」
旧寮大騒ぎ。
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松永は普通に畑へいた。
瀬名が隣で水を撒いている。
「松永くん」
「なんだ」
「最近、一緒に畑いるの普通になったね」
「……そうだな」
自然だった。
あまりにも。
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藤堂と獅子原は。
共同工具棚を作っていた。
「夫婦DIYじゃん」
「違う!」
否定が弱い。
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そして。
真壁と水瀬。
「卒業後どこ住む?」
「海近いとこがいい」
「畑も欲しいな」
会話が完全に結婚後だった。
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「……やばいな」
俺が呟く。
一ノ瀬雪乃が笑う。
「うん」
「高校生の会話じゃない」
「でも、なんか幸せそう」
静かな声。
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その時。
監視ドローンが飛来。
《Eクラス共同生活観測中》
「もう家族観察番組じゃねぇか」
柴崎が呆れる。
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すると。
突然、旧寮モニター点灯。
《中央恋愛省 特別発表》
嫌な予感。
白鷺優斗が映る。
「現在、Eクラス方式の影響拡大を受け」
静かな声。
《全国恋愛共同生活試験制度》
《導入決定》
沈黙。
「……は?」
Eクラス全員停止。
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さらに。
《共同生活型恋愛教育》
《全国モデル指定》
「待て待て待て!!」
柴崎が叫ぶ。
「俺らの同室生活、全国化すんの!?」
白鷺は静かに頷いた。
「皆さんは現在、日本恋愛教育制度最前線です」
「嫌すぎるぅぅぅぅ!!」
旧寮が揺れるレベルで叫び声が響いた。
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その夜。
俺と一ノ瀬の部屋。
一ノ瀬はベッドへ座りながら、小さく笑った。
「……最初、偽装恋人だったのにね」
「だな」
「今、国家モデルカップル」
「意味分からん」
すると。
一ノ瀬は少しだけ照れながら言った。
「……でも」
「なんだ」
「今の方が、好き」
静かな声。
完全に本音だった。
だから。
俺も少しだけ笑う。
「俺もだ」
その瞬間。
《感情共鳴指数》
《史上最高値更新》
監視ドローン、深夜即反応。
「寝ろぉぉぉぉ!!」




