第三十三話 「同室」
Eクラス旧寮。
同室制度開始から、一週間。
結論から言うと。
「……もう夫婦じゃね?」
完全にそうだった。
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朝六時。
旧寮共有廊下。
「松永くん、朝ごはん」
「……助かる」
瀬名が普通に弁当を渡している。
松永は自然に受け取る。
距離感が熟年夫婦。
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一方。
「柴崎! 魚干しっぱなし!」
「うわっ忘れてた!」
朝霧が呆れながら片付けていた。
「お前ら新婚生活か?」
俺が言うと。
柴崎が真顔だった。
「いや、かなり近い」
「認めるな」
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さらに。
藤堂と獅子原。
「藤堂、それ私の枕」
「……すまん」
「もう半分寝ぼけてるでしょ」
獅子原が笑いながら押し返す。
生活感が強い。
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そして。
他の班でも変化が起きていた。
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農業班男子・真壁陸。
漁業班女子・水瀬千夏。
二人は最近、完全に行動を共にしていた。
「真壁ー」
「ん?」
「魚運ぶの手伝って」
「分かった」
自然すぎる。
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さらに。
漁業班男子と農業班女子。
狩猟班女子と改良班男子。
班を越えて、どんどん恋愛関係が増えていく。
もはや。
Eクラス全体が恋愛共同体だった。
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「……やばくないかこれ」
俺が呟くと、一ノ瀬雪乃が笑う。
「うん」
「恋愛感染どころじゃない」
「社会現象だね」
静かな声。
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その時だった。
旧寮食堂。
突然、農業班男子が立ち上がる。
「……俺、決めた」
空気が止まる。
隣には漁業班女子。
「卒業したら婚姻届出す」
数秒沈黙。
「は?」
Eクラス全員停止。
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「私も」
漁業班女子が照れながら言う。
「一緒に住みたいし」
空気が爆発した。
「早ぇぇぇぇ!!」
「高校生だぞお前ら!?」
「進展速度バグってる!!」
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だが。
それで終わらなかった。
「……俺たちも考えてる」
真顔で言ったのは藤堂。
獅子原が少し照れて笑う。
「えへへ」
さらに。
「俺も」
柴崎まで手を挙げる。
「朝霧と卒業後も一緒いたい」
朝霧が顔を真っ赤にする。
「ちょ、今言う!?」
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旧寮大混乱。
「なんでEクラスだけ人生進行速度速ぇんだよ!!」
農業班女子が叫ぶ。
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一方。
中央恋愛省。
会議室。
《Eクラス婚姻希望率》
《異常上昇》
研究員たちが騒然としていた。
「高校段階で将来形成率が高すぎます!」
「精神安定性も全国平均を大幅超過!」
白鷺優斗は静かに資料を見る。
「……なるほど」
小さく呟く。
「恋愛競争ではなく、“共同生活”が感情形成を加速させている」
つまり。
Eクラスは。
恋愛省が想定していなかった“家族形成モデル”になり始めていた。
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一方。
俺と一ノ瀬の部屋。
夜。
静かな空気。
一ノ瀬はベッドへ座りながら、小さく笑った。
「……みんなすごいね」
「婚姻届は飛躍しすぎだろ」
「でも」
窓の外を見る。
「少し分かるかも」
「何が」
「“ずっと一緒にいたい”って感覚」
静かな声。
心拍が少し上がる。
すると。
一ノ瀬が少し照れながら言う。
「……九条くんといると、落ち着くし」
監視ドローン即反応。
《感情共鳴指数上昇》
「だから来るなぁぁぁ!!」
もはや。
Eクラスの日常そのものが、恋愛データになっていた。




