第三十一話 「感情共鳴実験クラスの日常」
《感情共鳴実験クラス》
――正式名称変更から一週間。
結論から言うと。
何も変わらなかった。
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「おい柴崎! 罠壊れてるぞ!」
「昨日イノシシ突っ込んできた!」
「なんで校内にイノシシいるんだよ!」
旧校舎は今日も平和だった。
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一方。
農地。
「松永くん、そこ雑草」
「……すまん」
瀬名が笑いながら鎌を渡す。
その隣で。
松永は自然に水筒を差し出していた。
「飲め」
「ありがと」
完全に夫婦感ある。
「お前ら距離感自然すぎるだろ」
俺が呆れると。
農業班女子が真顔で言った。
「最近Eクラスカップル増えすぎて感覚麻痺してる」
それはそう。
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さらに。
改良班では。
「藤堂、これ運ぶの手伝って」
「分かった」
獅子原が普通に藤堂の腕を引っ張る。
藤堂、赤くなる。
でももう逃げない。
「……慣れたな」
「何が」
「恋愛」
Eクラス全員が少し静かになった。
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最初。
みんな恋愛なんて分からなかった。
でも今は。
ちゃんと誰かを見て、
ちゃんと好きになっている。
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その時。
旧校舎前が騒がしくなる。
「うわっ、マジで畑ある!」
「焼きとうもろこし屋だ!」
一般クラス見学組だった。
最近毎日来る。
もはや観光地。
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「ここがEクラス……」
一般クラス女子が呟く。
畑。
炭火台。
魚干し。
普通の学校じゃない。
だが。
みんな笑っている。
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「……なんかいいな」
ぽつりと。
一般クラス男子が言った。
「こういうの」
その瞬間。
監視ドローン反応。
《感情共鳴反応確認》
「うるせぇぇぇ!!」
Eクラス総ツッコミ。
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一ノ瀬雪乃は、その光景を見ながら笑っていた。
もう、ここにいるのが自然だった。
「……ねえ九条くん」
「なんだ」
「最初の頃、私すごかったよね」
「何が」
「畑にヒールで来て転んだ」
「天然記念物だったな」
「ひどい」
笑う。
本当に自然に。
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その時。
監視ドローンが接近。
《九条蓮・一ノ瀬雪乃》
《感情同期率測定》
「またか」
《同期率:98%》
即表示。
「上がってる!?」
柴崎が叫ぶ。
「お前らもう結婚しろ!!」
「飛躍しすぎだ!!」
一ノ瀬が真っ赤になる。
だが。
少しだけ嬉しそうだった。
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その頃。
中央恋愛省。
白鷺優斗は、新データを見ていた。
《Eクラス方式導入校》
《全国自然恋愛発生率増加》
研究員たちがざわつく。
「各地で“恋愛競争ストレス”低下が確認されています!」
「精神安定率も改善!」
静かな空気。
白鷺は窓の外を見る。
「……始まったのですね」
小さく呟く。
「恋愛制度そのものの変革が」
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一方。
Eクラス。
そんな国家レベルの話を知らず。
「焼きとうもろこし追加焼けたぞー!」
「うおおお!!」
いつもの騒ぎだった。
だが。
その中心で。
一ノ瀬がそっと俺の袖を掴む。
「……ん」
「なんだ」
「今日、一緒に帰ろ」
小さな声。
演技じゃない。
ちゃんと照れている。
だから。
俺も少しだけ笑う。
「分かった」
その瞬間。
《感情共鳴指数》
《過去最高値更新》
「だから空気読めぇぇぇ!!」
Eクラスの叫びが、夕焼け空へ響いた。




