第三十話 「感情共鳴実験クラス」
《Eクラス》
正式名称変更。
《感情共鳴実験クラス》
――だが。
翌朝。
「何も変わってねぇぇぇぇぇ!!」
柴崎の叫びが旧校舎へ響いていた。
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旧校舎。
ボロい。
農地。
相変わらず土だらけ。
食堂。
今日も自給自足。
監視ドローン。
まだ飛んでる。
「優遇しろよ!!」
柴崎が机を叩く。
「国家モデルなんだろ!?」
「そうだぞ!」
「個室寮くれ!」
「高級焼き肉食わせろ!」
改良班まで便乗していた。
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だが。
黒崎玲奈は冷静だった。
「予算申請通ってないから」
「リアルな理由!!」
Eクラス全員崩れ落ちる。
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一方。
松永は通常営業だった。
「とうもろこし収穫期だ」
「お前だけブレないな」
農業班は今日も畑作業。
狩猟班は山準備。
漁業班は川へ。
改良班は燻製器修理。
本当に何も変わらない。
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だが。
確かに変わったものもあった。
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「朝霧、危ねぇ!」
柴崎が自然に荷物を持つ。
「ありがと」
朝霧が笑う。
以前なら絶対なかった距離感。
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「瀬名、火力大丈夫か」
「うん、ありがと松永くん」
自然に隣へ立つ二人。
視線が柔らかい。
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「藤堂、これ手伝って」
「分かった」
獅子原が普通に腕を引いていく。
藤堂が赤くなっている。
だが嫌そうじゃない。
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そして。
それは他の班にも広がっていた。
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農業班男子と漁業班女子。
狩猟班女子と改良班男子。
漁業班男子と農業班女子。
以前なら、班ごとに分かれていたEクラス。
でも今は。
自然に混ざっている。
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「……恋愛感染だな」
俺が呟くと、一ノ瀬雪乃が笑った。
「もう誰も否定できないね」
風が吹く。
畑が揺れる。
「みんな、“好き”を隠さなくなった」
静かな声。
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その時。
農地奥から騒ぎ声。
「うおおおお!!」
「またか」
見ると。
農業班男子・真壁陸が真っ赤な顔で立っていた。
相手は漁業班女子・水瀬千夏。
「……俺」
完全に緊張している。
「お前と魚捕ってる時、楽しい」
周囲静止。
「だから、その……好きだ」
沈黙。
水瀬は少し驚いた後。
「……うん」
照れながら笑う。
「私も好き」
数秒停止。
そして。
「また増えたぁぁぁぁ!!」
Eクラス大爆発。
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《感情共鳴指数更新》
モニターが光る。
《Eクラス総合指数上昇》
また上がっていた。
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その頃。
中央恋愛省。
研究員たちが混乱していた。
「ありえません!」
「自然恋愛発生率が止まらない!」
「班交流による感情伝播が加速しています!」
モニターには。
Eクラス中心の巨大相関図。
恋愛感情が、
まるで連鎖していた。
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一方。
旧校舎屋上。
夕方。
俺と一ノ瀬は並んで空を見ていた。
「……結局」
一ノ瀬が小さく笑う。
「名前変わっても、EクラスはEクラスだね」
「だな」
下を見る。
騒いでる連中。
笑ってるやつら。
泥だらけの農地。
焼きとうもろこし。
全部そのままだ。
でも。
確かに変わった。
最初は。
誰も恋愛なんて信じてなかった。
なのに今は。
ちゃんと誰かを好きになってる。
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一ノ瀬がぽつりと言う。
「……ねえ」
「なんだ」
「私、このクラス好き」
静かな声。
演技じゃない。
本音だった。
だから。
俺も少し笑う。
「俺もだ」
その瞬間。
《感情共鳴指数》
《過去最高値更新》
監視ドローンがまた反応した。
「だから空気読めぇぇぇ!!」
Eクラス全員のツッコミが、夕焼け空へ響いた。




