第二十三話 「恋愛感染」
《感情共鳴指数》
新制度導入から三日。
神奈川県立統合学園は、明らかにおかしくなっていた。
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「おはよう朝霧!」
「おはよ、柴崎」
「今日もかわ――」
「朝からうるさい」
漁業班女子たちに殴られていた。
だが柴崎は幸せそうだった。
終わってる。
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一方。
農地では。
「松永くん、それ焦げる」
「……すまん」
「最近ボーッとしすぎ」
瀬名が笑いながら炭火調整していた。
そして自然に隣へ座る。
距離が近い。
完全にカップル。
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さらに。
「藤堂、その工具貸して」
「ああ」
獅子原が普通に藤堂の肩へ寄りかかっていた。
改良班男子、完全に顔が赤い。
「お前ら進展早くない?」
俺が呆れると、一ノ瀬が笑う。
「恋愛感染だね」
「病気みたいに言うな」
「でも実際そうかも」
静かな声。
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問題は。
それがEクラスだけじゃなくなっていたことだ。
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昼休み。
校内。
一般クラス生徒たちが、Eクラス農地へ来ていた。
「焼きとうもろこしください!」
「魚スープまだある!?」
「燻製ベーコン食べたい!」
もはや人気観光地。
「なんで旧校舎がテーマパーク化してんだ……」
俺が呟く。
すると。
一般クラス女子がぽつりと言った。
「Eクラスって楽しそうだよね」
沈黙。
「A組みたいにギスギスしてないし」
「ちゃんと友達って感じする」
周囲も頷く。
価値観が変わり始めていた。
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その時。
A組男子が声を荒げた。
「ふざけるなよ!」
空気が止まる。
「なんでEクラスなんかが人気なんだ!?」
苛立った顔。
「恋愛不適合者だろ!?」
静寂。
だが。
一般クラス女子が言い返した。
「でもA組って、なんか疲れるじゃん」
ざわめき。
「誰が誰と付き合ったとか」
「スコアがどうとか」
そして。
「Eクラスの方が、普通っぽい」
空気が変わる。
A組側が言葉を失う。
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その頃。
中央管理棟。
白鷺優斗はデータを見ていた。
《感情共鳴指数》
《全校平均上昇》
「……異常ですね」
黒崎玲奈が言う。
「Eクラス接触者ほど数値安定率が高い」
白鷺は静かに笑った。
「つまり、“感情感染”が起きている」
モニターには。
Eクラスを中心に広がる相関図。
まるで感染図だった。
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一方。
Eクラス農地。
いつもの騒ぎ。
「おい九条!」
柴崎が肩を組んでくる。
「最近一ノ瀬さんと距離近くね?」
「知らん」
「昨日も二人で帰ってたろ!」
「たまたまだ」
「恋愛弱者の言い訳だ!」
「お前数日前まで弱者側だったろ」
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一ノ瀬は、そのやり取りを見ながら笑っていた。
本当に自然に。
「……変だね」
「何が」
「この学園」
風が吹く。
「前まで、“好き”って隠すものだったのに」
静かな声。
「今は、少しずつ言えるようになってる」
その時。
農業班女子が突然叫んだ。
「えっ!? マジ!?」
全員振り向く。
彼女は端末を見ながら固まっていた。
《校内恋愛感情発生率》
《前年比 312%上昇》
沈黙。
「増えすぎだろ!!」
Eクラス総ツッコミ。
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その瞬間。
校内モニターが点灯する。
《中央恋愛省緊急会議開催》
空気が止まる。
白鷺優斗が映る。
「現在、神奈川県立統合学園において」
静かな声。
「極めて異常な“自然恋愛増殖現象”を確認しています」
嫌な言い方だった。
そして。
「原因調査のため、“Eクラス全面監視体制”へ移行します」
Eクラス全員。
同時に叫んだ。
「また俺たちかよぉぉぉぉ!!」




