第二十二話 「遅れてきた恋愛感情」
Eクラスが、おかしくなっていた。
いや。
前からおかしかったが、方向性が変わった。
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朝。
Eクラス食堂。
「朝霧、魚取れた?」
「今日は大漁!」
「見せて!」
柴崎が完全に彼氏だった。
距離が近い。
笑顔多い。
分かりやすすぎる。
「お前昨日まで“恋愛とか知らねぇ”って言ってなかった?」
俺が呆れると、柴崎は真顔だった。
「知らなかった」
「重いな」
「でも今は分かる」
朝霧を見る。
「好きなやついると、毎日ちょっと楽しい」
朝霧が顔を赤くする。
「……朝から恥ずかしいこと言わないで」
Eクラスが騒ぐ。
「リア充だぁぁ!!」
「漁業班爆発しろ!!」
「なんで祝福してんのに爆発させるんだよ」
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一方。
農地では。
「松永くん、火強い」
「……すまん」
「炭追加しすぎ」
「お前の方が調整うまい」
松永と瀬名。
こっちは静かなタイプだった。
だが。
自然に隣へいる。
気づくと会話してる。
そして。
普通に手を握ってる。
「……なんであいつら急に恋愛強者になったんだ」
俺が呟くと、一ノ瀬が笑う。
「遅れてきたんだよ」
「何が」
「恋愛感情」
⸻
その時だった。
改良班男子・藤堂圭介が、狩猟班女子へ話しかけていた。
藤堂圭介。
Eクラス改良班所属。
燻製技術と工具改造が趣味。
常にゴーグルを首から下げている。
そして。
狩猟班女子・獅子原カナ。
短髪。
活発。
罠設置が得意。
山を走り回るタイプ。
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「獅子原」
「ん?」
「この前の燻製肉、どうだった」
「うまかった!」
「……そうか」
数秒沈黙。
Eクラス全員が見守っていた。
「なんでみんな見るんだよ!?」
藤堂が赤くなる。
だが。
柴崎がニヤニヤしていた。
「お前も行っとけ」
「何を!?」
「恋愛だよ」
「雑すぎるだろ!!」
⸻
すると。
獅子原が笑った。
「でもさ」
「……?」
「私、藤堂と一緒に改良班作業するの好きだよ」
静寂。
藤堂停止。
「え」
「なんか楽しいし」
少し照れながら笑う。
「あと、燻製うまい」
「そこ評価なんだ」
だが。
藤堂の耳は真っ赤だった。
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Eクラス全員。
完全に察した。
「行けぇぇぇ!!」
「改良班ァァァ!!」
「燻製恋愛だ!!」
「ネーミングセンス終わってる!!」
藤堂が叫ぶ。
だが。
獅子原は逃げなかった。
ちゃんと藤堂を見ていた。
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数秒後。
藤堂は観念したように息を吐く。
「……俺も」
「うん」
「獅子原といると楽しい」
静かな声。
「だから、その……」
ゴーグルを外す。
「好きだ」
沈黙。
そして。
獅子原は少し笑った。
「うん」
照れながら。
「私も好き」
数秒停止。
次の瞬間。
「うおおおおおおおおお!!」
Eクラス大爆発。
「また増えたぁぁ!!」
「Eクラス恋愛革命!!」
「次は誰だ!!」
「恋愛感染みたいに言うな!!」
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《感情共鳴指数 更新》
モニターが光る。
Eクラス全体数値上昇。
《協調性》
《精神安定率》
《対人感情指数》
全部上がっていた。
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白鷺優斗は、管理棟モニター室でその光景を見ていた。
「……興味深い」
静かな声。
「恋愛感情が、“環境”によって自然発生している」
黒崎玲奈が腕を組む。
「Eクラスは隔離失敗例のはずだった」
「ですが今は違う」
白鷺は微笑む。
「むしろ、“最も自然な感情環境”になっている」
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一方。
農地では。
Eクラス連中が騒ぎ続けていた。
「次は九条だ!!」
「なんでだよ」
「一ノ瀬さんと進展しろ!!」
「無茶言うな!」
一ノ瀬が隣で笑う。
本当に楽しそうに。
そして。
「……でも」
小さく呟く。
「少し分かるかも」
「何が」
「“好き”って、こういう風に増えていくんだね」
夕陽が畑を照らす。
Eクラス。
恋愛不適合者隔離クラス。
でも今、この場所には。
本物の感情が確かに増え始めていた。




