第二十話 「忘れられていた解体計画」
学園祭後夜祭、最終日。
神奈川県立統合学園は、完全に祭りの余韻に包まれていた。
校庭にはまだ提灯が残っている。
焼きとうもろこしの香りも漂っていた。
なぜなら。
松永がまだ焼いているからだ。
「お前いつまで営業してんだよ」
俺が呆れると、松永は真顔で答えた。
「在庫がある」
「商売人すぎるだろ」
⸻
一方。
柴崎は完全に浮かれていた。
「朝霧ぃぃぃ!!」
「うるさいって!」
漁業班カップル成立後。
こいつのテンションがずっと高い。
「俺今Lスコア見るの楽しい!!」
「恋愛社会に適応し始めてるぞお前」
「ちくしょう!!」
でも顔は嬉しそうだった。
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瀬名と松永も微妙に空気が変わっていた。
隣に立つ距離が近い。
自然に会話している。
改良班女子がニヤニヤしていた。
「松永くん今日ずっと機嫌いい」
「焼きとうもろこし売れたからだ」
「絶対違う」
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一ノ瀬雪乃は、その光景を静かに見ていた。
笑っている。
本当に自然に。
「……Eクラス、変だね」
「今さらか」
「恋愛下手なのに、恋愛してる」
「なんだその矛盾」
「でも」
少しだけ目を細める。
「嫌いじゃない」
⸻
その時だった。
突然。
旧校舎全体へ警報が鳴り響いた。
《Eクラス全員、中央講堂へ集合》
空気が止まる。
「……は?」
柴崎が固まる。
松永も手を止めた。
数秒後。
Eクラス全員が同時に気づく。
「……あ」
沈黙。
「解体計画忘れてたぁぁぁぁ!!」
大パニックだった。
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数十分後。
中央講堂。
全校生徒集合。
A組。
教師。
生徒会。
全員がこちらを見ていた。
壇上には白鷺優斗。
そして生徒会長・相沢。
空気が重い。
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「本来であれば」
白鷺が静かに言う。
「本日、Eクラスは解体される予定でした」
講堂がざわつく。
「やっぱりぃぃ!?」
「忘れててよかったレベルじゃねぇ!」
柴崎が崩れ落ちる。
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白鷺は続ける。
「理由は単純です」
モニター表示。
《恋愛不適合者隔離クラス》
「Eクラスは、本来“失敗例”として運用されていました」
空気が冷える。
「しかし」
画面が切り替わる。
《学園祭総合一位》
《Lスコア集団上昇》
《高協調性》
《感情安定性上昇》
ざわめき。
白鷺は静かに言った。
「結果は予想外でした」
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その時。
相沢が前へ出る。
「ですが!」
鋭い声。
「Eクラスは秩序を乱しました!」
「うわ出た」
柴崎が小声で言う。
「恋愛指数制度を否定し」
「不適格者同士で集団化し」
「学園内価値観を混乱させた!」
A組側が頷く。
だが。
Eクラスは静かだった。
⸻
すると。
松永が前へ出た。
ざわつく講堂。
「……なんだ」
相沢が睨む。
松永は真顔で言った。
「焼きとうもろこし、食っただろ」
沈黙。
「は?」
「お前、うまいって言った」
講堂停止。
「だから」
松永は静かに言う。
「Eクラスを否定するなら、あの味も否定しろ」
空気が止まる。
なんだその理論。
だが。
妙にEクラスらしかった。
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次に。
柴崎が前へ出る。
「俺、恋愛とか分かんねぇよ」
静かな声。
「でも朝霧好きだ」
朝霧が目を丸くする。
「それじゃダメなのか?」
講堂が静まり返る。
⸻
そして。
一ノ瀬雪乃が前へ出た。
全校がざわめく。
学園最高Lスコア。
恋愛社会の象徴。
その彼女が。
「私は、Eクラスで初めて“普通の恋愛”を見ました」
静かな声。
「点数じゃない」
「人気でもない」
「打算でもない」
講堂を見る。
「ちゃんと、“好き”で動いていた」
空気が変わる。
⸻
最後に。
白鷺優斗が、俺を見る。
「九条蓮くん」
「……なんです」
「君はどう思いますか?」
静寂。
全校の視線。
俺は少しだけ考えた。
最初。
恋愛なんて全部偽物だと思ってた。
でも。
Eクラスで見たのは。
泥臭くて。
不器用で。
バカみたいな感情だった。
だけど。
多分。
そっちの方が本物だった。
「……恋愛って」
ゆっくり言う。
「数値だけじゃ測れないんじゃないですか」
講堂が静まり返る。
⸻
長い沈黙の後。
白鷺優斗は静かに笑った。
「……なるほど」
そして。
《Eクラス解体計画》
《凍結》
モニターへ表示される。
数秒停止。
次の瞬間。
「うおおおおおおおおおお!!」
Eクラスが爆発した。
「生き残ったぁぁぁ!!」
「焼きとうもろこし万歳!!」
「だからそこじゃねぇだろ!!」
だが。
その騒がしい光景を見ながら。
一ノ瀬雪乃は小さく笑った。
本当に嬉しそうに。
そして。
俺も少しだけ笑っていた。




