第十六話 「学園祭焼きとうもろこしの奇跡」
学園祭当日。
朝六時。
Eクラス農地は、すでに戦場だった。
「炭火追加!!」
「タレ持ってこい!!」
「焼き台温度下がってるぞ!」
煙。
熱気。
とうもろこしの山。
完全に祭りではなく工場だった。
「……なんでこんな本格的なんだよ」
俺が呆れると、松永は真顔で言った。
「本気だからだ」
重い。
焼きとうもろこしへの情熱が重い。
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午前九時。
学園祭開始。
各クラスが一斉に客引きを始める。
A組高級カフェには長蛇の列。
恋愛占いブース。
公開告白ステージ。
ペアゲーム大会。
どこも“恋愛”を売りにしていた。
だが。
「おい……なんだこの匂い」
「めっちゃいい匂いしない?」
「焼きとうもろこし?」
人の流れが変わる。
香ばしい醤油の匂い。
炭火。
煙。
それが校内へ広がっていた。
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Eクラス屋台。
『炭火焼きとうもろこし専門店』
看板が出ていた。
なぜか本格的。
「いらっしゃい!!」
「焼きたてだぞ!!」
柴崎が叫ぶ。
朝霧が魚スープを配る。
改良班は燻製醤油を塗り続ける。
そして中央。
松永が無言で焼いていた。
職人みたいだった。
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「……人、多くない?」
一ノ瀬が呆然と呟く。
本当に多かった。
A組からも流れてきている。
「匂いで負けた……」
「なんでEクラス飯テロしてんだよ」
A組男子が悔しそうにしていた。
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その時。
白鷺優斗が現れる。
監察官登場で空気が止まる。
だが。
「……一本ください」
普通に並んだ。
「国家権力が並んだ!?」
「マジかよ」
Eクラスがざわつく。
白鷺は焼きとうもろこしを受け取り、一口食べた。
数秒沈黙。
そして。
「……おいしいですね」
周囲が騒然となる。
国家監察官が認めた。
Eクラス焼きとうもろこし。
もはや国家級である。
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その時。
中央モニターが点灯する。
《学園祭リアルタイム人気ランキング》
一位。
A組高級カフェ。
二位。
Eクラス焼きとうもろこし屋台。
「うおおおおお!!」
Eクラス爆発。
「いけるぞ!!」
「革命だ!!」
「炭火は裏切らねぇ!!」
うるさい。
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その光景を見ながら。
俺はふと思った。
柴崎。
朝霧。
松永。
瀬名。
こいつら、ちゃんと誰かを見てる。
打算じゃない。
スコアでもない。
ちゃんと感情で動いてる。
だから。
気づいたら俺は叫んでいた。
「柴崎!! 松永!!」
全員がこちらを見る。
「お前ら学園祭中に告れ!!」
沈黙。
「恋人になれ!!」
「はぁ!?」
柴崎が真っ赤になる。
松永も珍しく固まっていた。
俺は続ける。
「お前らの数値ならいける!!」
ざわめき。
「偽物じゃないだろ!!」
空気が止まった。
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柴崎は朝霧を見る。
朝霧も目を丸くしていた。
松永は瀬名を見る。
瀬名も少し顔を赤くする。
一ノ瀬が小さく笑った。
「……九条くん、すごいこと言うね」
「勢いだ」
「でも」
彼女は優しく言う。
「ちゃんと本音だった」
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その時だった。
《リアルタイムLスコア更新》
モニターが突然変化する。
柴崎。
松永。
朝霧。
瀬名。
Eクラス生徒たちのLスコアが上昇していく。
「え」
「マジで?」
「上がってる!?」
白鷺優斗が静かに画面を見ていた。
そして。
「……興味深い」
小さく呟く。
「数値ではなく、“感情”で上昇している」
初めてだった。
Eクラスの恋愛感情が。
制度を超え始めたのは。




