シーズンⅤ エピローグ1 黒幕の帰還
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は物語の最終話を投稿しました。
今回はエピローグ1です。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
羽沢家のリビングでは羽沢蓮の両親が、女神ルミナと千石の帰還を待っていた。
この世界と向こうの世界では時間の進み方が違うのか、それともルミナは任意の時間に人間を転移させられるのか。
いずれにしても、ルミナと千石が異世界へ旅立ってからおよそ三時間後、二人は再び光とともに羽沢家のリビングにその姿を現していた。
千石がリビングにその姿を見せると、羽沢の両親は我先にと息子の様子がどうだったかを尋ねた。
「彼は私が用意した救済を拒絶しました。」
千石は告げた。
その報告に両親の表情は一瞬曇った。
「彼は私なんかよりもはるかに頼もしい仲間たちを見つけていました。私が手を差し伸べるまでもなく、彼は自分の足で立ち、自分の手で、自分と仲間たちの居場所を作り上げていました。」
千石がそう続けると、両親の顔は少しだけ明るくなった。
彼の仲間たちが、この世界の加害者たちと同じ顔であることを千石は伝えるべきかどうか迷ったが、結局伝えることはしなかった。
両親に心配の種を残すことにもなりうるし、何よりも自分が見てきた彼らの絆に比べれば、彼らの外見のことなど取るに足らないことのように思えてきたのだ。
「それと、羽沢君からの伝言なんですが——。」
千石は羽沢、もといレオンから託された両親への伝言を、ゆっくりとかみしめるように伝えていた。
『父さん、母さん。俺の居場所を用意して待っていてくれて本当にありがとう。俺の居場所は離れたところになっちゃったけど、俺はこの世界で自分の居場所を作ってかけがえのない仲間たちと幸せに暮らしています。だから二人も幸せになってください。二人の子供に生まれたことは、どこの世界に行っても俺の自慢です。』
伝言が終わると、母親はその場に泣き崩れた。
父親は唇をかみしめて、両手の拳を握りしめて震えていた。
葬儀直後の再現———。
それでも二人の顔に流れた涙は、葬儀の時のものとは確実に違っていた。
◇
千石が異世界から帰還して数日後、学校の職員室では電話がひっきりなしにかかってきていた。
「ですから、それは事実関係を確認中でして.........。」
「取材等の対応は今はお受けできませんので、どうかお引き取りを..........。」
教師たちが電話応対をする中で、校長は頭を抱えて机に置かれた郵便物に目を落としていた。
弁護士事務所から内容証明郵便で届いたそれは、羽沢蓮が生前受けていたいじめに関する記録——千石が落とした”爆弾”だった。
原告は両親となっているが、同封された資料には校内で起こった出来事についてまで事細かに記されていた。
「いったい誰がこんなものを.............!」
修羅場と化した職員室の前を、白衣を纏った千石は何食わぬ顔で通り過ぎ、理科室へと歩いて行った。
◇
教室では吾妻らは変わらず甲高い笑い声を教室に響かせていた。彼らにとって、もう羽沢蓮という人間は頭の片隅にも存在しないと言わんばかりの態度だった。
だが、教室に見慣れない大人が一人、おもむろに入ってきて彼らに向かって告げた。
「吾妻君、稲木さん、倉見さん、高坂さん。話が聞きたいので面談室まで来なさい。」
――その人の腕には『教育委員会』の腕章が巻かれていた。
◇
その日の夕方、千石は羽沢蓮が亡くなった公園を訪れていた。
今日は千石と羽沢蓮の両親が集めた証拠資料を受けて、教育委員会が動いてくれたという報告もあった。
もっとも、この場所に報告してもあの世界にいるレオン君には届かない。
それがわかっていても千石は折に触れてこの場所を訪れていた。
”これは私が私の心の中にいる君と向き合うための儀式なんだ”、と千石は思っていた。
崩落した崖は規制線が張られて近寄れないようになっていたが、規制線の外側の手すりの根元には今も花束やお菓子が供えられていた。
千石はその中に、自分や彼の両親以外の人からのものが含まれていることに気がついた。
『俺が気づかなかっただけで、元の世界にも一緒に俺の居場所を作ろうとしてくれる人がいるって分かったから——。』
あの世界で聞いた彼の言葉が耳によみがえる。
孤独に見えていた羽沢君にも、きっと私が知らないだけでいろいろな優しい「縁」があったのだろう。
こっちの世界も案外捨てたもんじゃない、と千石は思った。
その時だった。公園の入り口近く、複数人が近づいてくる気配がした。
その声に聞き覚えがあり、千石はとっさに茂みの陰に身を潜めた。
吾妻、稲木、倉見、高坂——。今日、教育委員会の聴き取りを受けた例の四人組だった。
その後ろから別の男子生徒が一人、田中——羽沢君にコンビニで万引きを強要した男子が、四人の後を追いかけて公園に入ってきた。
「あー。マジでむかつく。なんで今更死んだやつのこと、ねちねち聞かれなきゃなんねーんだよ。」
吾妻が吐き捨てるように言う。
「本当にそう。早く成仏してくれって感じ?」
稲木が後に続く。
「あー。チクショウ!」
吾妻がストレス発散とでもいうかのように、供えられていた花束とお菓子を蹴り飛ばした。
あいつら——!
千石は茂みから飛び出しそうになったが、思いとどまった。
八つ当たりをする吾妻らの姿を見ていると、彼らがすごく虚しいことをしているように千石には思えたからだった。
ここでどれだけ羽沢君を責めても、なじっても、羽沢君の居場所はもう誰にも侵すことはできない。
彼は、君たちと同じ顔をした、だけど君たちが到底なりえない高潔な人格者である仲間たちに囲まれて、私たちの手の届かない場所で幸せに生きている。
それを思うと彼らの行為は幼稚に過ぎることのように思えてきたのだ。
「羽沢が死んでマジでつまらなくなったわ。誰か代わりをしてくれねえかなあ?」
吾妻はそういうとおもむろに四人の後ろからついてきた田中の方に視線を向ける。
他の三人も一斉に田中に視線を向けた。
「ま、まさか俺.........?やめろよ、冗談だろ........。」
田中はその場に凍り付いたように立ち尽くした。
八つ当たりに飽きたのか、吾妻らは公園から出ていく。先ほど凍り付いていた田中も、媚びるかのようにその後を追って公園を出ていった。
◇
——やっぱりか。
茂みから姿を現した千石は彼らが去っていった方を見やると、ため息をついた。
やっぱりお前らはそうやって悪意に満ちた汚い沼の中で、同じことをこれからも繰り返していくのだろうな、と千石は諦観に似た想いを抱いていた。
千石は気を取り直して、散らばった花束とお菓子をもとの位置に戻して、自分が持ってきた花束を手すりの根元に供えてから、静かに手を合わせた。
<羽沢君。そしてレオン君。あの時、君は私に「ありがとうございました。」って言ってくれたね。でもね、実をいうと私の方こそ、君の優しい言葉と、君の強い成長に救われたんだ。だから、今度は私の方からその救済に感謝を込めて言わせてほしい。>
「ありがとう。」
長雨の季節が過ぎた十月の晴れ渡った空の下で、千石の祈りは秋風に乗って遠いどこかへ運ばれていった。
エピローグ1もお読みいただきありがとうございました。
現世のいじめっ子の末路について、詳細を書こうかとも思いましたが自分の書きたいテーマは「ざまあ」ではなかったので、悪意の沼から抜け出せないという表現にとどめました。
さて、エピローグ2はこの後21時10分に公開予定です。
この物語が面白かったと思っていただけた方は是非、高評価・ブックマーク等で応援していただけたらと思います。
カクヨムでも掲載を開始しましたので、そちらも応援していただけたら幸いです。




